Oncology PR

進行膵がん治療に対する全RAS変異を標的とする新薬RMC-6236(ダラクソンラシブ)の可能性

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

Wolpin, Brian M et al. “Daraxonrasib in Previously Treated Advanced RAS-Mutated Pancreatic Cancer.” The New England journal of medicine vol. 394,18 (2026): 1790-1802. doi:10.1056/NEJMoa2505783

膵管腺がん(PDAC)は、診断時にすでに進行期であることが多く、極めて予後不良な疾患として知られています。転移を有する膵がんの全生存期間中央値は1年に満たず、5年生存率はわずか3%にとどまるという厳しい現状があります。この疾患の生物学的な最大の特徴は、腫瘍の90%以上にRAS変異(主にKRAS)が認められることです。RASは細胞増殖を制御するスイッチの役割を果たしており、その変異はがん細胞の無秩序な増殖を引き起こす強力なドライバーとなります。したがって、RASを標的とすることは非常に重要です。

しかし、RASタンパク質はその構造的な特徴から、長年にわたって標的化が可能ではないとされてきました。近年、特定の変異型(KRAS G12C)を狙った阻害剤が実用化されましたが、膵がんにおけるG12C変異の頻度はわずか1〜2%に過ぎません。大多数の患者にとって、RASを直接標的にした治療は依然として手の届かないものでした。こうした中、全RAS変異を包括的に標的とする新薬RMC-6236が登場し、治療体系に重要な変化をもたらそうとしています。

キーポイント

  • RMC-6236(Daraxonrasib:ダラクソンラシブ)の機序: 活性状態である「RAS(ON)型」を標的とし、K, N, Hの3つのアイソフォームおよび野生型RASをも包括的に抑制するマルチ選択的阻害剤です。
  • 300mg投与の根拠: 膵がんの腫瘍縮小には90%以上の持続的なMAPK経路抑制が必要であり、臨床試験では300mgがこの抑制レベルを維持するのに最適な用量として選定されました。
  • 2ライン治療としての有効性: 第1/2相試験において、RAS変異を有する膵がん患者に対し、全生存期間中央値が13ヶ月から15ヶ月を超えるという、従来の化学療法を上回るデータが示されました。
  • 管理可能な安全性: 300mg投与群におけるグレード3以上の治療関連有害事象は34%でしたが、適切な投与管理により、副作用による治療中止例は認められませんでした。

臨床試験(RMC-6236-001)の概要

  • 試験フェーズ: 第1/2相試験
  • 主要評価項目: 安全性
  • 副次評価項目: 薬物動態、抗腫瘍活性(奏効率、奏効期間、無増悪生存期間など)

本試験において、第3相試験に向けた推奨用量としてダラクソンラシブ300mgが選定されました。この決定の背景には、基礎研究から得られた、膵がんの退縮にはMAPK経路を90%以上抑制し続ける必要がある、という知見があります。薬物動態および薬力学モデルにより、300mgの投与がこの抑制閾値を維持し、抗腫瘍活性を最大化できる可能性が最も高いことが示されました。

特に、2ライン目の治療として300mgを投与された群では、以下の良好なデータが得られました。

  • RAS G12変異群(26名): 客観的奏効率(ORR)は35%に達し、全生存期間(OS)の中央値は13.1ヶ月を記録しました。
  • 全RAS変異群(38名): 全生存期間の中央値は15.6ヶ月を示しました。

現在、進行膵がんに対する第2選択の化学療法における全生存期間は、一般的に5〜7ヶ月程度とされています。これと比較して、RMC-6236が示した13〜15ヶ月という数値は、既存治療の限界を超える可能性を示唆しています。

RAS変異に挑む新薬RMC-6236(ダラクソンラシブ)の仕組み

これまで実用化されてきたKRAS G12C阻害剤は、タンパク質が不活性状態(GDP結合型、OFF状態)にある時のみ結合する性質を持っていました。しかし、膵がんの多くを占めるRAS変異体は、常に活性状態(GTP結合型、ON状態)に維持されることで、強力な増殖シグナルを出し続けています。RMC-6236は、このON状態のRASを直接標的にします。

RMC-6236の最大の特徴は、特定の変異に限定されないマルチ選択性です。膵がんで頻度の高いG12D(39%)、G12V(31%)、G12R(17%)といった主要な変異型、さらにはG13やQ61といった変異型も広範にカバーします。RMC-6236は、細胞内でシクロフィリンAおよびGTP結合型RASとtri-complexを形成することにより、RASエフェクターの結合を立体的に遮断し、下流のシグナル伝達を強力に抑制します。

このようにRMC-6236はK、N、Hの全アイソフォームおよび野生型RASをも抑制するため、がん細胞が他のRAS経路を利用して治療を回避する代償的なシグナル伝達も封じ込める可能性を秘めています。

安全性と副作用のマネジメント

RMC-6236は、活性状態のRASを標的にする特性上、正常細胞への影響も考慮する必要がありますが、試験では管理可能な安全性プロファイルが確認されました。

主な治療関連有害事象(TRAE)としては、皮疹(90%)、口内炎・粘膜炎(54%)、下痢(52%)、嘔気(39%)などが報告されています。300mg投与群において、グレード3以上のTRAEを経験した患者は34%でした。

副作用による投与中断(43%)や減量(30%)は発生しているものの、300mg投与群において副作用を理由に治療を完全に中止した患者は一人もいませんでした。これは、皮疹に対する外用剤や抗菌薬の使用、下痢に対する抗下痢薬の投与といった標準的な支持療法、および適切な休薬や減量調整によって、治療を継続できたことを示しています。

さいごに

本研究によって、これまで直接的な介入が困難であった広範なRAS変異に対し、RMC-6236(ダラクソンラシブ)が強力な抗腫瘍活性を示すことが明らかになりました。現在、RMC-6236を従来の標準的な化学療法と比較する第3相試験(RASolute 302)が進行しています。遺伝子変異に基づいた精密医療が、最も治療が困難と言われる膵がんにおいて標準となる日がくるかもしれません。