高リスクの急性骨髄性白血病(AML)や骨髄異形成症候群(MDS)において、同種造血幹細胞移植は治癒を期待できる唯一の手段となることが多いのが現状です。しかし、移植後であっても再発のリスクは依然として高く、その後の予後を改善するための維持療法の確立が長年の課題となっていました。
高リスクAML/MDSにおける既存の薬物療法の難しさは、薬剤の毒性と造血能維持の両立です。本研究はがん細胞を叩こうとすると正常細胞まで壊してしまうという課題を、遺伝子編集技術によって解決することを目的としました。CRISPR-Cas9を用い、あらかじめ特定の標的抗原を欠損させた造血幹細胞を移植することで、正常細胞を標的療法から切り離し、再発予防のための治療を可能にするアプローチが検証されました。
キーポイント
- 迅速な生着: 第1/2a相試験において、遺伝子編集を施した造血幹細胞(trem-cel)を移植された全30例(100%)が28日目までの好中球生着を達成しました。
- 抗原欠損の効果: 抗CD33抗体薬物複合体(GO)による維持療法において、ドナー由来の正常細胞が保護されたことで、持続的な重度の血液毒性を回避しながらの治療継続が可能となりました。
- 薬物動態の最適化: 正常細胞上のCD33が除去されたことで、薬剤のクリアランスが低下し、治療可能範囲が拡大することが示唆されました。
- 多系統への分化能の維持: 遺伝子編集は骨髄系だけでなく、リンパ系(B細胞、NK細胞)の再構築にも悪影響を及ぼさず、機能的な免疫系が維持されていました。
CD34陽性細胞の遺伝子編集:trem-celの仕組み
本研究では、ドナー由来のCD34陽性細胞からCRISPR-Cas9を用いてCD33遺伝子をノックアウトした造血幹細胞製品であるtrem-cel(tremtelectogene empogeditemcel)が使用されました。
CD33はAML細胞の多くに発現する標的ですが、同時に正常な骨髄細胞や前駆細胞にも発現しています。このため、抗CD33抗体薬物複合体であるゲムツズマブ オゾガマイシン(GO)を投与すると、正常な造血機能まで抑制されてしまうことが大きな課題となっていました。本研究では、CD33が造血において必須ではないという基礎研究のデータに基づき、この分子を編集によって削除する方針をとりました。
CD33は、その発現が造血細胞に限定されており、ほとんどのAML症例で発現していること、そしてCD33を欠損させたヒト造血幹細胞を用いた異種移植試験において機能不全が見られなかったことから、遺伝子編集の候補として適しています。
trem-celの製造過程における編集効率は中央値90%と非常に高く、解析の結果、リンパ系(特にNK細胞)においてTdTの活性に起因すると考えられる比較的大きな挿入(+2bp以上)が一部で見られたものの、造血能全体には影響を及ぼさないことが確認されました。また、好中球の酸化バースト能についても、評価可能な17サンプル中12サンプルで正常な機能が維持されていることが示されています。
臨床試験の結果:安全性と有効性の検証
実施された第1/2a相試験(NCT04849910)では、高リスクAML/MDS患者30例を対象にtrem-celの安全性と生着能が検証されました。
- 主要評価項目: 第28日目までの好中球生着率は100%であり、生着までの期間の中央値は10日(95%信頼区間:9〜10日)でした。未編集の細胞を用いた標準的な移植(中央値11日)と大きな差のない、迅速な造血再構築が得られたといえます。
- 維持療法: 19例に対して行われたGO維持療法では、推奨第2相用量(RP2D)として2.0 mg/m²が決定されました。
- 安全性: 試験全体を通じて有害事象(TEAE)のグレード3以上を経験した患者は90%に達しましたが、その多くは移植前の前処理に伴う一過性のものでした。GO維持療法に起因する持続的な重度血球減少が観察されなかったことにより、trem-celによる保護機能が臨床的に証明されました。
なお、本試験は財源的n理由により早期終了を余儀なくされましたが、第1相部分は完了しており、得られたデータは次世代の治療法確立のための重要なエビデンスとなると考えられます。
GO維持療法の新たな可能性
移植後に行われるGO維持療法において、従来の治療環境では正常細胞上に存在する膨大なCD33がsink(吸収源)として機能し、薬剤を非特異的に消費してしまう標的媒介性薬物動態(TMDD)という現象がクリアランスを早めていました。しかし、trem-celによってこの吸収源が除去された環境下では、GOの消失速度が低下し、血中濃度曲線下面積(AUC)は従来の再発・難治性AML患者のデータと比較して相対的に高まり、半減期は33〜71時間と推定されました。
重要なのは、このような血中濃度が高まった状態であっても、血液毒性が抑制されたことです。これは、遺伝子編集によって副作用の主な要因が物理的に消失したことで、薬剤の有効性を引き出すための治療域(治療可能範囲)が拡大したことを意味しています。
さいごに
本研究は、遺伝子編集を用いて正常細胞からCD33を除去し、標的療法の毒性から解放するというコンセプトの有効性を示しました。再発例の解析において、がん細胞が依然としてCD33を発現し続けていたことは、この治療法が抗原の消失による逃避という耐性機序を招いていないことを示しています。
今後は、GOよりも強力なペイロードを持つ次世代の抗体薬物複合体や、CD33を標的としたCAR-T細胞療法などとの併用が期待されます。