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【EASO】肥満症治療の2026年版アップデート

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Ciudin, Andreea et al. “Framework for the pharmacological treatment of obesity and its complications from the European Association for the Study of Obesity (EASO): 2026 update.” Nature medicine vol. 32,6 (2026): 1962-1966. doi:10.1038/s41591-026-04397-4

近年インクレチン関連薬といった肥満症治療薬(OMM)に関しては、次々に新たな臨床試験のデータが報告されてきており、エビデンスが蓄積されつつあります。

欧州肥満学会(EASO)によるこの2026年版のフレームワーク・アップデートは、2025年11月21日までの最新データをもとに、複雑化した治療環境を整理した指針を発表しています。

キーポイント

  • 薬剤間の序列に関する統計的エビデンス: 体重減少効果において、チルゼパチドがセマグルチドを上回ることが再確認されました。
  • 肝疾患の細分化: 肝線維化の改善とMASHの消失という2つの指標が独立して評価され、セマグルチドでの2つの指標でのエビデンスが明確化されました。
  • 機能不全の予防と改善を軸とした個別化: 合併症の有無に応じ、非脂肪組織の機能を守るのか、改善させるのかという治療目的の明確化が図られました。

体重管理におけるチルゼパチドとセマグルチドの比較

2025年11月21日をデータカットオフとする最新のネットワークメタ解析もとにした今回のアップデートでは、62のランダム化比較試験(RCT)から得られた知見を統合し、総体重減少率(TBWL)においてチルゼパチド(10–15 mg)がセマグルチド(2.4 mg)を上回る位置づけであることが改めて確認されました。

  • チルゼパチド(15 mg): TBWL 15.4%
  • セマグルチド(2.4 mg): TBWL 10.5%

Aronneらによる直接比較試験を含む新たなデータの蓄積により、推定値の不確実性が狭まり、これら主要薬剤間の序列に対するエビデンスが高まりました。

肝臓を守る治療へ:MASHと肝線維化への新たなアプローチ

最新のアルゴリズムにおける変更は、肝疾患についてMASHの消失(resolution of MASH)と肝線維化の改善(improvement of fibrosis)の2つの臨床的に重要な指標に細分化されたことです。これにより、組織学的な肝アウトカムに基づいた、より厳密な薬剤選択が可能となります。

ESSENCE試験と肝疾患データの解釈

非硬変MASH(線維化ステージF2–F3)を対象とした第3相試験である「ESSENCE試験」の結果を受け、セマグルチドは両方の指標における強力なエビデンスを確立しました。 一方、チルゼパチドについてはF2–F3のMASH患者を対象としたRCTにより組織学的な有用性が示されていますが、その位置づけには慎重な解釈が求められます。

  • MASHの消失(線維化の悪化を伴わない): セマグルチドとチルゼパチドは、共に対象集団において良好な組織学的改善を示しており、アルゴリズム上でも並列に位置づけられています。
  • 肝線維化の改善(MASHの悪化を伴わない): 現時点ではセマグルチドがより強い推奨を得ています。これはチルゼパチドの効果を否定するものではなく、チルゼパチドの線維化改善データが主に二次評価項目に由来しており、セマグルチドの第3相試験データと比較してエビデンスの成熟度が低い(less mature)と判断されたためです。

肝疾患における新たな定義 2026年版アップデートでは、肝疾患のアウトカムを「MASHの消失」と「線維化の改善」に分離しました。非硬変MASHにおける組織学的改善についてはセマグルチドとチルゼパチドの両者を支持していますが、より困難な指標である線維化の改善については、現時点では成熟した第3相試験データを有するセマグルチドに優位性があります。

炎症の鎮静化を意味するMASHの消失と、将来の肝不全リスクを左右する線維化の改善を分けて考える視点は、長期的な臓器保護を目指す上では非常に重要です。

病態に基づいた薬剤選択

EASOのフレームワークは、肥満の影響を機械的肥満(Mechanical adiposity)と代謝的肥満(Metabolic adiposity)に大別し、それぞれの病態生理に基づいた治療目標を提示しています。

  • 機械的肥満: 物理的な負荷による機能障害(睡眠時無呼吸症候群:OSAS、変形性膝関節症:KOAなど)。
  • 代謝的肥満: 脂肪組織の機能不全による内分泌・免疫的障害(2型糖尿病、心血管疾患:CVD、MASHなど)。

今回のアルゴリズムでは、個々の臨床状況における治療の目標を明確にしています。

  1. 合併症がない場合: 目標は、非脂肪組織における将来の機能不全を予防(Preventing dysfunction)することです。
  2. 合併症がある場合: 目標は、既に生じている非脂肪組織の機能不全を改善・回復(Reversing dysfunction)させることです。

例えば、OSASの寛解(機械的側面の改善)を優先するならばチルゼパチドが、心血管イベント(MACE)の抑制や肝線維化の改善(代謝的側面の改善)を重視するならばセマグルチドが、それぞれのエビデンスの強弱に基づいて選択されるべきであることが、このフローチャートから読み取れます。

さいごに

2026年版のEASOフレームワークは、固定された治療順序を提示するものではなく、日々アップデートされるエビデンスを可視化し、エビデンスの強弱に基づいて、各患者の状況に応じた適切な治療を目指しています。このように肥満症治療は、単なる減量の段階を越え、特定の臓器障害を標的とした個別化医療の領域へと進化をしているといえるでしょう。