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【CT0590】他家(allo)CAR-T細胞療法による多発性骨髄腫治療の可能性

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Jin, Song et al. “A novel triple-knockout allogeneic BCMA CAR T cell therapy (CT0590) in multiple myeloma: preclinical and phase I study.” Blood, blood.2025032112. 11 Jun. 2026, doi:10.1182/blood.2025032112

現在、再発・難治性の多発性骨髄腫(RRMM)の治療において、自身のT細胞を加工する自家CAR-T細胞療法は大きな成果を上げています。しかし、患者さん自身のT細胞の状態が、先行する多剤治療の影響で劣化している場合、十分な品質のCAR-T細胞を製造できない場合があることや、製造に数週間の時間を要するため、進行の速い症例では投与が間に合わないという時間的制約が課題として残されています。

これらの課題を解決する治療として期待されているのが、健康ドナー由来の細胞をあらかじめ用意しておく他家(ユニバーサル)allo CAR-T細胞療法です。しかし、他家細胞は患者さんの免疫系によって異物とみなされ、速やかに排除される拒絶(HvGR)という大きな問題があります。特に、宿主のナチュラルキラー(NK)細胞による攻撃をいかに回避し、体内での増殖と持続性を確保するかが、重要なポイントとなっていました。

キーポイント

  • 革新的な遺伝子改変: CT0590ではTRAC、B2M、NKG2Aの三重ノックアウトに加え、BCMAとNKG2Aを標的とするdual CARを搭載しています。
  • 自家細胞に匹敵する増殖能: 第I相試験において、ピーク時のCARコピー数が280,000 copies/µg gDNAを超え、他家細胞でありながら極めて高い増殖性が確認されました。
  • 優れた安全性と奏効率: 移植片対宿主病(GvHD)の発生はなく、5名中3名が奏効。うち2名は、20ヶ月から23ヶ月を超える長期的な厳格な完全奏効(sCR)を維持していました。
  • バイオマーカー: 投与前のNK細胞におけるNKG2Aの発現レベルが、治療効果を予測する重要な指標となり得ることが示唆されました。

他家CAR-Tの課題:なぜ自分以外の細胞は排除されるのか

他家CAR-T細胞療法を臨床応用する上で、免疫学的に最も困難だったのが、宿主と移植細胞の間で生じる二つの方向性の免疫反応です。

1つは、注入された他家T細胞が患者さんの正常組織を攻撃する移植片対宿主病(GvHD)です。これに対しては、T細胞受容体(TCR)のα鎖(TRAC)をノックアウトする対策が確立されています。

2つ目は、患者さんの免疫系が他家細胞を攻撃する宿主対移植片反応(HvGR)です。主要組織適合遺伝子複合体(HLA)クラスI分子が拒絶の標的となるため、β2-ミクログロブリン(B2M)を欠損させてHLAクラスIを消失させれば、患者さんのT細胞からの攻撃は回避できます。しかし、ここに免疫学的なトレードオフが生じます。

NK細胞には、自己のHLAクラスIを確認することで攻撃を抑制する仕組みがありますが、HLAクラスIが欠損した細胞に遭遇すると、これを自己ではない(Missing-self)と判断して攻撃します。つまり、T細胞による拒絶を逃れようとHLAを消去すると、それによってNK細胞の攻撃スイッチを入れてしまうというジレンマが存在するのです。

このジレンマを解消し、他家細胞が体内で安定して機能できるように開発されたのが「CT0590」です。

CT0590のデザイン:三重ノックアウトとNKG2A CARの融合

CT0590は、NK細胞による攻撃を避けるのではなく、拒絶を司る特定のNK細胞を制御するデザインとなっています。

  • 三重ノックアウト(tKO):
    1. TRAC: GvHDを防止。
    2. B2M: 宿主T細胞による排除を回避。
    3. NKG2A: 自細胞に搭載したCARが、自身を攻撃してしまうfratricideを防止
  • Dual CARの搭載:
    1. BCMA CAR: 標的である腫瘍細胞(骨髄腫細胞)を攻撃。
    2. NKG2A CAR: 宿主のNK細胞表面にある抑制性受容体NKG2Aを標的。

NKG2Aは特に活性化されたNK細胞に強く発現する分子です。拒絶反応を主導する活性化NK細胞を選択的に制御することで、生体全体の免疫バランスを崩したり、長期的なNK細胞欠乏を招くリスクを避けつつ、CAR-T細胞の生存環境を確保しています。

前臨床試験の結果:NK細胞の攻撃をいかに退けたか

実際の患者さんへの投与に先立ち、CT0590がNK細胞の攻撃下でも生存できるかどうかが検証されました。基礎研究の結果、NKG2A CARを搭載したT細胞は、試験管内において活性化NK細胞による殺傷に対して耐性を示しました。また、マウスモデルを用いた実験では、NK細胞が存在する条件下でも、CT0590はNK細胞の生存を抑制しつつ、体内で安定して増殖し、強力な抗腫瘍効果を発揮しました。

一方で、NKG2A CARを持たない従来のBCMA標的CAR-T細胞は、注入後速やかにNK細胞によって排除されました。このデータは、NKG2A CARによる保護効果が、Missing-selfの壁を打ち破るための不可欠な要素であることを示しています。

第I相臨床試験:良好な治療効果と管理可能な安全性

RRMM患者4名と、極めて予後不良なpPCL患者1名を対象とした第I相臨床試験(NCT05066022)が行われました。

  • 安全性: GvHDは一例も発生せず、用量制限毒性(DLT)も認められませんでした。サイトカイン放出症候群(CRS)はグレード1または2に留まり、十分に管理可能な範囲でした。
  • 臨床的な有効性: 5名中3名が奏効し、うち2名が厳格な完全奏効(sCR)を達成しました。注目すべき点として、RRMMの症例では23ヶ月以上、pPCLの症例でも20ヶ月という長期の奏効維持が報告されました。
  • 増殖能の客観的指標: 他家CAR-Tの課題であった体内増殖についても、ピーク時のCARコピー数が280,000 copies/µg gDNAを超えていました。

NKG2A発現レベルの相関

治療効果と患者さんの免疫状態を解析したところ、sCRを達成した患者さんでは、治療前のNK細胞におけるNKG2Aの発現率が38%〜46%と高い傾向にありました。対して、奏効しなかった患者さんではこの数値が低く留まっていました。

また、CT0590の投与後、体内ではNKG2A陽性のNK細胞が顕著に減少していることも確認されました。これは、注入された細胞が論理通りに機能したことを示しています。スクリーニング時に患者さんのNK細胞の状態を確認することは、今後の重要な指標になる可能性があります。

さいごに

CT0590に対する本論文は、三重遺伝子ノックアウトとNKG2A CARの組み合わせが、他家CAR-T細胞療法の最大の障壁であるHvGRを克服する有望な手段であることを示しました。自家細胞を用いたCAR-T療法が困難な重症患者さんにとっては、このような既製品(オフ・ザ・シェルフ)を用いた治療は極めて重要な選択肢になるかもしれません。