造血幹細胞に生じた体細胞変異が特定の細胞集団として拡大するクローン性造血(CH)という現象が、私たちの体内で加齢とともに発生しています。このクローン性造血は血液がんのリスク因子として知られていますが、通常の血液検査で見逃されがちな単球のわずかな増加が、将来の重大な健康リスクを予兆している可能性が明らかになってきました。
キーポイント
- 高リスクな前腫瘍状態の特定: クローン性単球増加症(CMUS/CCMUS)は、クローン性造血の中でも特に骨髄系腫瘍(MN)への進展リスクが高い独立した臨床病態です。
- 全身疾患との深い関連: 血液疾患に留まらず、動脈硬化性心血管疾患や急性・慢性腎臓病の発症リスクとも強く相関しており、その影響力は喫煙などの従来の危険因子を上回る可能性があります。
- 診断基準の精緻化: 性別による単球数の基礎値の違いや、特定の遺伝子変異(DNMT3A)の特性を考慮することで、より精度の高いリスク評価が可能になります。
- AIによる予測の効率化: 機械学習ツール「MoSAIC」を用いることで、通常の血算データから高リスクなSRSF2変異の存在の効率的な予測ができる可能性があります。
クローン性単球増加症とは何か
慢性骨髄単球性白血病(CMML)の診断基準には至らないものの、クローン性造血と単球増加を併せ持つ症例の扱いが、長い間臨床での課題となっていました。これらの症例が将来的にどの程度の確率で骨髄系腫瘍(MN)へ進展するのか、また全身の健康にどのような影響を及ぼすのか、集団レベルでの大規模な評価は十分になされていませんでした。こうした背景から、国際的なコンセンサス分類(ICC)によって提唱されたのが、以下の疾患概念です。
- CMUS(Clonal Monocytosis of Undetermined Significance): クローン性造血を認め、かつ単球数が0.5 × 10⁹/L以上かつ白血球全体の10%以上を占めるが、CMMLの診断基準は満たさない「意義不明のクローン性単球増加症」。
- CCMUS(Clonal Cytopenia and Monocytosis of Undetermined Significance): CMUSの条件に加え、貧血や血小板減少などの血球減少を伴う状態。
本研究は、英国バイオバンク(UK Biobank)の約43万人のデータを解析し、これら「意義不明」とされてきた病態の臨床的意義を明らかにすることを目的としています。そして単なる数値の異常が、個人の健康リスクにどう直結するのかを検証しました。
骨髄系腫瘍への進展リスクと遺伝子変異のプロファイル
遺伝子変異のプロファイル解析の結果、CMUS、特に絶対的単球増加を伴う群やCCMUSは、極めて高い骨髄系腫瘍への進展リスクを持つ前腫瘍状態であることが示されました。
骨髄系腫瘍(MN)への進展リスク
10年間の累積発症率を比較すると、単球増加を伴う群のリスクが高いことがわかります。
- CCMUS: 18.5%
- CMUS-ABS(絶対的単球増加 1.0 × 10⁹/L以上): 9.1%
- CCUS(単球増加を伴わないクローン性血球減少): 5.3%
遺伝子変異ごとの予後分析
- 高リスク群: SRSF2などのスプライシング因子変異、およびTET2の複数変異やTET2変異に4q欠失(LOHを含む)を伴う症例は、MNへの進展リスクが著しく高くなります。
- 低リスク群: DNMT3A変異のみが認められる症例は、他の変異に比べて進展リスクが低い(ハザード比 0.25)ことが確認されました。
- Y染色体の欠失: 男性において、特定の変異に加えてY染色体の欠失(mLOY)が併存する場合、リスクが低下するという関連も報告されました。
心血管疾患および腎疾患との関連性
クローン性造血に由来する単球やマクロファージは、全身の炎症プロセスを介して血管系や臓器に損傷を与えることが知られています。本研究では、単球の異常が心臓や腎臓のリスクをどの程度高めるかも検証しました。
その結果、CMUS-ABSは、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)や腎疾患と強力に関連していました。
- 心血管疾患へのインパクト: CMUS-ABSによる10年累積発症率の増加分は約8.2%と推定されました。これは喫煙(3.3%)のリスクを大きく上回り、高コレステロール血症(9.0%)に匹敵する数値です。
- 腎疾患への影響: 急性腎障害(AKI)や慢性腎臓病(CKD)のリスクも有意に上昇し、微量アルブミン尿の頻度増加も確認されました。
診断基準の最適化:性別差と遺伝子プロファイルの考慮
現行の診断基準を一律に適用すると、性別による生理的な差異や遺伝子変異の特性を見落とす可能性があります。本研究では、診断の精度を高めるための改訂案を提示しました。
性別固有の閾値の設定
男性は女性よりも生理的に単球数が多い傾向にあります。これを踏まえ、男性の閾値を「0.6 × 10⁹/L以上かつ11.5%以上」とわずかに引き上げることで、不必要な診断を減らしつつ、男女間のリスク評価の整合性を保つことができると考えられます。
DNMT3A単独変異例の解釈
DNMT3A変異はクローン性造血で最も頻度が高いものの、それ自体が血球数を変動させる力は弱いことが知られています。そのため、DNMT3A変異例に見られる単球増加は、変異による直接的な結果というよりも偶然の併存である可能性が高いと考えられます。このため、DNMT3A単独変異例をCMUSの定義から除外することが、臨床的な妥当性を高めるのではないかと考えられました。
改訂による精度の向上
これらの改訂(性別基準とDNMT3Aの除外)を適用すると、10年累積発症率はCMUS-ABSで14.7%、CCMUSで25.8%へと上昇し、真に介入が必要な高リスク群をより的確に抽出できるようになりました。
機械学習 classifier「MoSAIC」によるリスク予測の効率化
高リスクなSRSF2変異を特定するための遺伝子検査(NGS)は、コストやリソースの観点から全症例に実施することは困難です。そこで、AIを活用した効率的なスクリーニングとして、研究チームはMoSAIC(Monocytosis with SRSF2 Automatically Inferred from Counts)という、通常の血算(CBC)データからSRSF2変異の存在を推測する機械学習ツールを開発しました。
- 予測精度: AUC 0.90という極めて高い精度を達成しました。
- 効率性の向上: MoSAICを用いることで、わずか約9.3人のシーケンシング実施につき1人の割合でSRSF2変異保持者を特定できる計算となり、検査の効率が大幅に向上します。
- 重要な予測因子: 予測において特に重要な因子として、血小板数、単球数、および好酸球数があげられました。
- 検証: デンマークの独立したコホート(約62万人)においても、本ツールで陽性と予測された群はMNの発症リスクが著しく高いことが確認されました。
さいごに
本研究は、これまで見過ごされがちであった単球のわずかな増加が、将来の血液がんや、心血管や腎臓の疾患に関連する重要な指標である可能性を示しました。CMUSやCCMUSの定義を、性別差や遺伝子変異の因果関係に基づいて精緻化し、MoSAICのようなAIツールで補完することで、将来的にこのような疾患が顕在化する前に何らかの介入ができる可能性があるかもしれません。