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【VAYHIT2試験】免疫性血小板減少症(ITP)治療の新しい選択肢:イアナロマブ(Ianalumab)がもたらす「短期集中治療」の可能性

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Cuker, Adam et al. “Ianalumab plus Eltrombopag in Immune Thrombocytopenia.” The New England journal of medicine, 10.1056/NEJMoa2515168. 9 Dec. 2025, doi:10.1056/NEJMoa2515168

免疫性血小板減少症(ITP)において、国際的な患者調査である「iWISh(ITP World Impact Survey)」の結果が示す通り、多くの患者および医師が治療における最優先事項として「治療終了後の持続的な病態コントロール」を挙げています。

現在、第1選択薬であるステロイドに不応、あるいは再発した際の第2選択薬としてトロンボポエチン受容体作動薬(TPO-RA)などが広く用いられていますが、これらは原則として無期限の投与を必要とする「維持療法」の側面が強く、真の意味での「ドラッグフリー」の実現には高い壁が存在していました。VAYHIT2試験では、新規抗体薬イアナロマブ(Ianalumab)がもたらす短期集中治療について調べられました。

キーポイント

  • 12ヶ月時点での高い治療失敗回避率: 4ヶ月間のイアナロマブ投与により、12ヶ月時点での治療失敗の回避率が54%(9mg/kg群)に達し、プラセボ群(30%)を有意に上回りました。
  • 薬物負荷の軽減: イアナロマブ併用により、エルトロンボパグの累積投与量が中央値で約26%減少(4900mgから3600mgへ)し、減量・中止の成功率が向上しました。
  • B細胞枯渇とBAFF受容体遮断の二重機序: 強力なB細胞除去に加え、再発因子となり得るBAFF経路を遮断することで、従来のB細胞標的療法を超える反応がみられることが示唆されました。
  • QOLの定量的改善: 血小板数のみならず、患者の主観的症状である「疲労(Fatigue)」スコアにおいて臨床的に意味のある改善が認められました。

ITP治療における現状の課題とイアナロマブの役割

ITPの本態は自己抗体による血小板破壊と産生不全であり、その中心的な役割を担うのがB細胞です。これまでの第2選択薬は血小板産生を促す対症療法が主であり、免疫異常そのものをリセットする治療ではありませんでした。また、既存のB細胞標的薬であるリツキシマブ(抗CD20抗体)は、脾臓に残留するメモリーB細胞の存在や、投与後のBAFF(B細胞活性化因子)レベルの上昇が自己反応性B細胞の再活性化を惹起し、早期再発を招くという課題がありました。

イアナロマブは、BAFF受容体(BAFF-R)を直接標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体です。BAFF-Rを遮断することでB細胞の生存シグナルを断つだけでなく、抗体依存性細胞傷害作用(ADCC)によって末梢および組織内のB細胞を枯渇させることができます。

このBAFF-Rを標的にするというアプローチは、リツキシマブで問題となったBAFF上昇による再発メカニズムを克服し、短期間の介入で自己免疫を修正することを目指します。これにより、治療のゴールを一生続く投薬から一定期間の介入による持続的寛解へと変化させる可能性があります。

VAYHIT2試験の概要

VAYHIT2試験は、イアナロマブの短期投与が持続的なベネフィットをもたらすかを検証した多施設共同、二重盲検、ランダム化プラセボ対照第3相試験です。

対象は、第1選択薬であるステロイド治療で不十分な反応(血小板数30×10⁹/L未満、または8週間以上の投与継続が必要な状態)あるいは再発(初期反応後の30×10⁹/L未満への低下)した成人ITP患者152名です。患者はイアナロマブ(9mg/kg、3mg/kg、またはプラセボ)を月1回、計4回投与する各群にランダムに割り当てられました。

本試験では、全群でTPO-RAであるエルトロンボパグを併用し、まず血小板数を安定させます。血小板数が50×10⁹/L以上で安定した症例に対しては、24週目までにエルトロンボパグを段階的に減量し、中止することを検討しました。

主要評価項目は「治療失敗からの回避(Freedom from treatment failure)」と設定されました。ランダム化から8週間以降における血小板数30×10⁹/L未満や救急療法の開始、エルトロンボパグの中止失敗なども治療失敗の対象とされました。これらは、治療初期の一時的な変動を排除し、薬物介入を終えた後の真の持続効果を得るための厳格な定義と言えます。

治療失敗リスクの低減と高い反応率

試験の結果、イアナロマブ併用群はプラセボ群と比較して、治療失敗のリスクを統計学的に有意に低減させました。ハザード比は9mg/kg群で0.55(95%CI: 0.32-0.92, P=0.04)、3mg/kg群で0.58(95%CI: 0.34-0.98, P=0.045)であり、プラセボ群に対して治療失敗リスクを40%以上抑制しています。12ヶ月時点での治療失敗回避率の推定値は、9mg/kg群で54%に達し、プラセボ群の30%を圧倒しました。

また、副次評価項目である「6ヶ月時点での安定した反応(エルトロンボパグ減量・中止期間中の維持)」についても、9mg/kg群では62%が達成し、プラセボ群の39%を有意に上回りました(P=0.045)。

このように、イアナロマブとエルトロンボパグの併用療法は、プラセボとエルトロンボパグの併用と比較して、治療失敗までの期間を有意に延長させました。これらの知見は、治療終了後も安全な血小板数を維持し、追加治療の必要性を減らせる可能性を裏付けています。

さらに、エルトロンボパグの累積投与量がプラセボ群の中央値4900mgに対し、9mg/kg群で3600mgまで抑制されました。これは患者の負担を実質的に軽減し、医療経済的な側面からも価値をもたらすデータと言えます。

安全性と忍容性、そして患者QOLへの寄与

強力なB細胞枯渇を伴う治療において、感染症リスクの評価は重要です。本試験では、イアナロマブ群で好中球減少症の頻度がプラセボ群より高かった(16% vs 2%)ものの、その多くは一過性であり、重篤な感染症の発生頻度や重症度に群間差は認められませんでした。

有害事象による治療中止例もなく、重篤な有害事象(9mg/kg群 16% vs プラセボ群 4%)の多くも、治療効果が発現する前の初期段階に発生したITP関連の事象(出血や血小板減少)でした。

さらに、本試験では患者の主観的な症状の改善が定量化されています。PROMIS-Fatigue T-scoreにおいて、9mg/kg群では−7.7±8.9という有意な改善が認められました(プラセボ群は−3.6±7.0)。血小板数という数値の改善だけでなく、倦怠感(Fatigue)に対して、イアナロマブがベネフィットを示した意義は極めて大きいと考えられます。

さいごに

VAYHIT2試験は、4ヶ月という決められた期間の短期治療(イアナロマブ+エルトロンボパグ)が、その後の長期的な無治療期間をもたらす可能性を示しました。これは、既存のリツキシマブ治療で課題となっていた脾臓メモリーB細胞の残存やBAFF依存的な再発を、イアナロマブの作用機序によって克服しうることを示唆しています。現在進行中のVAYHIT1やVAYHIT3試験の結果によって、この新しい治療戦略の立ち位置はより明確になると考えられます。