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【GEN-PHEN-VEN研究】ベネトクラクス耐性を決める:AML治療における単球分化と遺伝子変異の影響

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Lachowiez, Curtis A et al. “Genetic and Phenotypic Correlates of Clinical Outcomes with Venetoclax in Acute Myeloid Leukemia: The GEN-PHEN-VEN Study.” Blood cancer discovery vol. 6,5 (2025): 437-449. doi:10.1158/2643-3230.BCD-24-0256

急性骨髄性白血病(AML)の治療体系は、低メチル化薬(HMA)とBCL2阻害薬ベネトクラクス(VEN)の併用療法の登場により、大きく飛躍しました。かつては強力な化学療法に適応しない高齢者や不適格患者にとって、予後は極めて厳しいものでしたが、この併用療法は標準治療を塗り替え、生存率を大きく向上させることに成功しました。

しかし、依然として「再発・耐性」は大きな課題であり、治療初期に反応を示す症例であっても、多くが最終的に耐性を獲得するため、その後の治療選択肢は極めて限定的となります。なぜ一部の細胞はVENに耐性を持ち、再び増殖を始めるのか。この問いに答えるためには、個々の遺伝子変異の分析を超え、細胞がどのような成熟段階にあるかという「表現型」の影響を解明する必要があります。

キーポイント

  • 単球系分化(Monocytic differentiation)は、VEN耐性を予測する極めて重要な臨床指標であり、非単球系と比較して完全寛解率の低下(59% vs 71%)と関連しています。
  • NPM1変異がもたらす影響:NPM1野生型では単球系分化が死亡リスクを高める(HR 1.89)一方、NPM1変異型はこのリスクを「上書き(override)」し、良好な予後を維持します。
  • 遺伝子変異と表現型の関連性:シグナル伝達経路の変異は、単球系への分化を誘導し、薬剤耐性を引き起こします。
  • アポトーシス閾値の変化:細胞が分化する過程で生存の依存先がBCL2からMCL1へとシフトすることが、生物学的な耐性の本質です。

「単球系分化」という名の予後マーカー

AML細胞がどの成熟段階で分化を停止しているかという「表現型」は、単なる形態分類ではなく、臨床的予後に関連するマーカーであることを、451名の患者を対象とした国際共同研究(GEN-PHEN-VEN研究)は示しました。

本研究では、従来の主観的な形態観察に加え、16種類の表面マーカーを用いた「非教師ありK-meansクラスタリング」により、AML細胞の分化状態を客観的に定義しました。この解析により、単球系の特徴を持つAMLは、非単球系と比較して以下のように予後が劣ることが確認されました。

  • 完全寛解率(CR/CRi):59%(単球系) vs 71%(非単球系)
  • 30日死亡率:11.0% vs 5.5%(約2倍の乖離)

遺伝子変異と表現型の関係:KRASPTPN11BRAF

細胞の表現型が分化に傾く背景には、特定の遺伝学的なドライバーが存在します。単球系AMLでは、NRASKRASPTPN11KMT2A再構成などの変異が顕著に濃縮されていました。

特にシグナル伝達経路の変異が生存期間に与える影響は大きなものとなっています。KRAS変異例の生存期間中央値(mOS)は3.3ヶ月、PTPN11変異例は5.0ヶ月と極めて短く、さらにBRAF変異(HR 4.89)やWT1変異も予後不良因子として特定されました。

このようなシグナル伝達経路の変異は、単球系AMLにおいて頻繁に認められ、これらはAMLの表現型に関わらず生存期間の短縮と関連していることも明らかになりました。

NPM1変異:遺伝子変異の有無が表現型を凌駕する

一方で、NPM1変異は、この「単球系=予後不良」というパターンには当てはまらず、多変量解析(MVA)の結果、以下の対照的な相関が明らかとなりました。

  • NPM1野生型:単球系分化は生存リスクを劇的に高める(HR 1.89)。
  • NPM1変異型:単球系分化は生存リスクに影響を与えない(HR 0.76)。

つまり、NPM1変異が存在する場合、細胞が単球系の「表現型」をしていたとしても、HMA+VEN療法に対する感受性が維持されるのです。これは、表現型のみに頼った診断が危険であることを示唆しており、個別化医療における遺伝子検査とフェノタイプ評価の統合がいかに重要であるかを証明しています。

生物学的メカニズム:アポトーシス閾値の再編とMCL1へのシフト

細胞が成熟する過程で、その生存戦略は「アポトーシス閾値の再編(rewiring the apoptotic threshold)」とも呼ぶべき変化を遂げます。未分化な前駆細胞がBCL2に依存しているのに対し、単球系へと分化した細胞は、生存維持のための依存をMCL1へとシフトさせます。

  • 単球系スコアとVEN耐性(AUC)の相関:Pearson R = 0.72
  • 単球系スコアとMCL1発現の正の相関:Pearson R = 0.36
  • MACスコア [BCL2/(BCL2L1+MCL1)]:分化が進むほどこのスコアは低下し、VENに対する脆弱性が失われます。

この知見は、AML治療におけるMCL1阻害薬の使用を支持しています。単球系の特徴を持つ症例や、KRAS/PTPN11変異を持つ難治例に対しては、MCL1阻害薬の併用や、より強力な細胞毒性化学療法の追加といった、戦略が考えられることとなるでしょう。

さいごに

GEN-PHEN-VEN研究は、AML治療における個別化医療のための新たな知見、「遺伝子変異」「表現型(分化状態)」「蛋白質依存性(BCL2/MCL1バランス)」という3つの要素を統合的に捉える重要性を示しました。