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多発性骨髄腫治療におけるデキサメタゾンの戦略的減量の意義

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Banerjee, Rahul et al. “Past, Present, and Future of Dexamethasone in Multiple Myeloma and AL Amyloidosis.” Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology, JCO2501713. 27 Jan. 2026, doi:10.1200/JCO-25-01713

多発性骨髄腫(MM)およびALアミロイドーシスの治療において、デキサメタゾンは半世紀以上にわたり治療レジメンの「主役」であり続けてきました。プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、抗CD38抗体、そして二重特異性抗体やCAR-T細胞療法といった新しいクラスの治療薬が次々と登場し、治療体系が大きく進化を遂げる中で、デキサメタゾンは変わらず併用薬として使われ続けています。本レビューでも指摘されているように、デキサメタゾンは前のラインで治療抵抗性になったにもかかわらず、次のラインでも当然のように再利用される唯一の薬剤という、極めて異質な存在です。

しかし、ステロイドがTリンパ球を抑制するという生物学的特性は、T細胞活性化を鍵とする現代の免疫療法(CAR-Tや二重特異性抗体)の効果を減弱させるリスクがあります。治療の進歩によりもたらされた「累積毒性」と「次ライン治療へのフィットネス維持」という点において、デキサメタゾンの減量はもはや避けて通れない議題となっています。

キーポイント

  • 累積毒性の定量的認識: 累積投与量が40mg、400mg、4000mgという閾値を超すごとに、毒性はQOLの低下から身体機能の不可逆的低下へとすすんでいく。
  • 「ステロイド温存」という考え方: 最新の臨床試験(IFM 2017-03、REST試験)は、早期中止(8週間以内)が有効性を損なうことなく安全性を向上させることを示している。
  • 次世代治療へのブリッジング: 漫然とした継続は筋肉量減少やCushing様症状を招き、CAR-T等の高度な次ライン治療への「適格性(Fitness)」を奪う。
  • 個別化と代替戦略: モンテルカストの併用によるInfusion reactionの予防や、高血糖リスクに対する分割投与(split-dosing)など、実践的な最適化が求められている。

デキサメタゾンの「負の側面」を定量的に再評価する

デキサメタゾンの毒性は、累積投与量によって変わってきます。

  • 数日単位(累積40mg〜): 不安、不眠、高血糖が顕在化します。特に不眠や焦燥感は、患者の精神的疲弊を招くだけでなく、主剤(IMiDsやPIs)のコンプライアンス低下を招き、結果としてPFS(無増悪生存期間)に悪影響を及ぼす「阻害因子」となりえます。
  • 数週間〜数ヶ月単位(累積400mg〜): 体液貯留(浮腫)、消化性潰瘍に加え、白内障や緑内障といった視機能障害が進行します。
  • 年単位(累積4000mg〜): 深刻な感染症リスクの増大、骨密度低下、筋肉量の減少(サルコペニア)が定着します。

デキサメタゾンは抗炎症作用を持つ一方でT細胞機能を抑制するため、将来的なCAR-T細胞療法や二重特異性抗体を用いた治療の効果を最大化するためには、可能な限りステロイドに頼らない「免疫環境の温存」が不可欠です。

また、ステロイド症状質問票(SSQ-MM)を用いた調査では、スコアが高い(症状が強い)ほど、患者のQOLと心理的幸福感が著しく低下していることが示されました。これは、身体的な毒性以上に患者の治療継続意志を削ぐ要因となっていることを示唆しています。

臨床試験が証明した「減量」の正当性

デキサメタゾン投与量は、かつての「高用量パルス」から、現代の「早期中止」へと大きく変化しています。

主要臨床試験の統合解析

試験名戦略の核心主要データ・臨床的意義
ECOG E4A03高用量パルス(40mg×4日) vs 低用量(週1回40mg)高用量パルス群で毒性による死亡リスクが有意に増大。週1回投与が生存率(OS/PFS)で上回り、現代の「低用量」の治療方法を確立した。
IFM 2017-03 (Phase 3)移植非適応の高齢・フレイル患者へのDara-Rd療法における8週間後中止ステロイドを早期中止したDara-Rd群のPFS中央値は53.4ヶ月であり、対照のRd群(22.5ヶ月)に対しHR 0.51と圧倒した。累積Dex量をMAIA試験の5%以下に抑えつつ、非常に良好な効果を維持した。
REST試験 (Phase 2)極めて高齢・フレイル(80歳以上が31%)へのIsa-VRd 4剤併用における8週間後中止100%のORR(全体奏効率)と41%のMRD陰性率を達成。ステロイドを早期に外すことで、イサツキシマブやボルテゾミブの相対投与強度を95%以上に維持できた。

「減量」は「最適化」である

これらのデータは、強力な抗CD38抗体を含む多剤併用療法において、デキサメタゾンは導入期の「ブースター」および「Infusion reaction予防」としての役割を終えた後は、速やかに終了すべきであることを示唆しています。ステロイドを減らすことは、患者のフィットネスを維持し、主要薬剤をより長く、より高用量で継続させるための「攻めの戦略」ともいえるのです。

病態別・状況別の最適化:ALアミロイドーシスと再発治療

ALアミロイドーシス:ステロイドは「 dispensable(不要)」か

ALアミロイドーシス患者は、心臓・腎臓浸潤により深刻な体液貯留リスクを抱えています。ステロイドによる浮腫は、単なる副作用を超え、致死的な心不全増悪を招くリスク(Double Whammy)となります。ダラツムマブによる血液学的奏効は非常に迅速であるため、第1サイクル終了後にはステロイドを中止、あるいは最初から10〜20mgの極低用量で開始することが推奨されます。現代の強力な治療下では、ALアミロイドーシスにおいてステロイドはもはや「dispensable」な存在になりつつあります。

再発・難治性(RRMM):次ライン治療を考えて投与

RRMMにおいて、効果がプラトーに達した後も漫然と継続されるステロイドは、筋肉量の減少やCushing様症状をもたらす可能性があります。これは、次ライン治療で使用される可能性のあるCAR-T療法や二重特異性抗体の投与にあたって、患者を「アンフィット(不適格)」に追い込む最大の要因となりえます。

現代のデキサメタゾン使用におけるベストプラクティス

臨床状況具体的な推奨投与エビデンスの確実性臨床的メリット
緊急時脊髄圧迫等に限定した4日間のパルス療法High迅速な症状緩和。ただし、常用は厳禁。
移植非適応の初発抗CD38抗体併用時、8週間(2サイクル)後に中止High副作用を最小化し、主剤の継続期間を最大化。
維持療法期原則として含めない(または6サイクル以内に中止)High長期的な骨・筋肉の健康とQOLの維持。OS改善への寄与。
ALアミロイドーシス10-20mgで開始、第1サイクル後に中止を検討Low*重篤な体液貯留の回避。(*希少疾患のためRCTが困難)
支持療法・予防モンテルカスト併用によるIRR予防。早期中止。Moderateステロイド曝露の総量削減とIRRリスクの両立。
高血糖・副作用対策分割投与(Split-dosing): 20mg×2日への変更Moderateピーク血中濃度を抑え、精神症状や血糖値スパイクを緩和。

さいごに

デキサメタゾンを「思考停止で継続する」時代は、終わりを迎えつつあります。「最小有効量(minimum effective dose)」の追求は、単なる副作用対策ではありません。患者の身体機能を温存し、将来の治療への橋渡しも考慮した、非常に重要な臨床判断となると考えられます。