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多発性骨髄腫の予後予測:『リスク遺伝子1つ』と『2つ以上』で生存率が大きく変わる

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Kaiser, Martin F et al. “Co-Occurrence of Cytogenetic Abnormalities and High-Risk Disease in Newly Diagnosed and Relapsed/Refractory Multiple Myeloma.” Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology vol. 43,24 (2025): 2679-2691. doi:10.1200/JCO-24-01253

多発性骨髄腫の治療は、過去20年で劇的な進歩を遂げ、新しい治療薬の登場により多くの患者さんの生存期間は著しく延長されました。しかしその一方で、治療開始から短期間で再発してしまう一部の「高リスク」な患者さんの存在が、未解決の大きな課題として残されていました。これまで個々の遺伝子異常と予後の関連性は指摘されてきましたが、誰が真の高リスク患者なのかを確実に見分けることは困難でした。

今回、24もの臨床試験に参加した患者データを統合・解析したこの大規模研究が報告されました。

キーポイント

  • リスクの「数」が重要:高リスク染色体異常(HRCA)が「1つ」だけか、「2つ以上」あるかで、患者の予後は全く異なることが明らかになりました。
  • 「ダブルヒット」の深刻な予後:HRCAを2つ以上持つ「ダブルヒット」患者は、1つだけ持つ「シングルヒット」患者や、HRCAがない患者に比べて、生存率が著しく低いことが示されました。
  • 最新治療でも残る課題:最新治療は標準リスク患者の予後を大きく改善しましたが、「ダブルヒット」群の予後不良という課題は依然として十分に克服されていません。
  • 普遍的な指標:この「ダブルヒット」という指標は、新規診断から再発・難治性の段階まで、あらゆる病状の患者に一貫して適用できる強力な予後予測因子であることが示されました。

1. リスクの「数」が重要:「シングルヒット」と「ダブルヒット」という考え方

多発性骨髄腫のリスク評価は、個々の染色体異常の「有無」が注目されてきましたが、それだけでは予後を正確に予測するには不十分でした。今回の研究は、リスク評価の焦点を「異常の種類」から「異常の数」へと転換させるという考え方を提示しました。

「シングルヒット」と「ダブルヒット」

この研究では、高リスク染色体異常(HRCA)、具体的にはdel(17p)、gain(1q)、t(4;14)、t(14;16)といった異常を1つだけ持つ患者を「シングルヒット」、2つ以上併せ持つ患者を「ダブルヒット」と定義しました。解析の結果、この2つのグループとHRCAを持たないグループとでは、予後に大きな差があることが判明したのです。

特に「ダブルヒット」の患者群は、「シングルヒット」やHRCAがない患者群と比較して、予後が著しく悪いことが示されました。

データが示すリスクの大きさ

この差の大きさは、HRCAがない患者群を基準としたハザード比(HR)で示されています。

評価項目シングルヒット (HRCAが1つ)ダブルヒット (HRCAが2つ以上)
無増悪生存期間 (PFS) のHR1.512.28
全生存期間 (OS) のHR1.692.94

「ダブルヒット」の患者は、HRCAがない患者に比べて、病気が悪化するリスクが2.28倍、死亡に至るリスクが2.94倍にもなることを示しています。これは、「ダブルヒット」を有する患者群は極めてリスクの高い状態であることを示しています。

2. 近年の治療でも克服できない「ダブルヒット」という壁

多発性骨髄腫の治療は、プロテアソーム阻害薬、免疫調節薬、そして抗CD38モノクローナル抗体といった強力な薬剤の組み合わせによって大きく進歩してきました。しかし、これらの治療でさえも「ダブルヒット」という高い壁を打ち破れていませんでした。

2015年以降に開始された臨床試験、つまり最新の標準治療が用いられている試験に限定して解析しても、「ダブルヒット」患者の予後不良の傾向は変わりませんでした。これは、最新治療に効果がないという意味ではありません。むしろ逆で、最新治療は標準リスクの患者により大きな恩恵をもたらしたため、悪性度の高い「ダブルヒット」患者との予後の差が埋まらなかった、ということを示唆しています。

この事実は、現在の標準治療が「ダブルヒット」患者を克服できていないことを強く物語っています。この患者群に対しては、既存の治療法とは全く異なる新しいアプローチが不可欠であり、ここに大きな「アンメット・メディカル・ニーズ」が存在することが浮き彫りになりました。

3. あらゆる患者に当てはまる、一貫したリスク指標

解析の結果、「ダブルヒット」は以下の主要な患者グループすべてにおいて、最も予後不良と関連していることが一貫して示されました。

  • 新規診断・移植適応(NDMM TE):比較的若く、自家造血幹細胞移植が可能な患者
  • 新規診断・移植非適応(NDMM TNE):高齢などの理由で、移植が難しい患者
  • 再発・難治性(RRMM):一度治療を受けた後に、再発または治療が効かなくなった患者

「移植適応」患者への影響の大きさ

中でも予後への影響が最も顕著だったのは、「新規診断・移植適応(NDMM TE)」の患者群でした。このグループにおける「ダブルヒット」患者の全生存期間(OS)のハザード比は4.17に達し、HRCAがない患者に比べて死亡リスクが4倍以上になるという結果でした。この患者群は高用量化学療法や自家造血幹細胞移植といった、最も強力で治癒の可能性すらある治療を受けます。しかし、「ダブルヒット」はこのような強力な治療でさえ十分な強度ではないことを示しています。

4. 1万4000人規模の解析が示す、揺るぎないエビデンス

研究の規模と手法

この研究は、過去に報告された24のランダム化比較試験のデータを統合したメタアナリシスであり、対象となった患者総数は13,926人に上ります。このうち、本解析に必要な全ての遺伝子情報が揃っていた7,724人のデータに基づいて結論が導き出されており、これは多発性骨髄腫の研究史上、前例のない大規模な遺伝子解析コホートです。

さらに、本研究では「フェデレーテッド・アナリシス」というユニークなアプローチが採用されました。これは、世界中の研究機関がそれぞれのデータを外部に持ち出すのではなく、中央から提供された統一の解析手法を用いて自ら再解析し、その結果だけを中央で統合するという手法です。この協調的なアプローチは、各施設のデータプライバシーを保護しつつ、研究者が自らのデータから新たな知見を得ることを促し、より透明性の高いグローバルな研究活動を可能にしました。

臨床現場への示唆

これほど大規模かつ一貫したエビデンスは、「ダブルヒット」を標準的な高リスクの定義として採用し、これらの患者に対してより積極的な、あるいは新規の治療戦略を検討する必要があることを示唆しています。今後の臨床試験の設計や日常診療において、この指標を用いることで患者のリスク層別化がより正確になり、真に治療を必要とする患者に最適な医療を届けるための基盤となることが期待されます。

結語

本稿で解説した大規模メタアナリシスは、多発性骨髄腫の予後予測において、高リスク染色体異常の「数」を数えるというシンプルな方法が、極めて正確かつ強力なツールであることを証明しました。

特に、2つ以上の異常を持つ「ダブルヒット」は、新規診断から再発まで、また最新治療を受けているか否かにかかわらず、一貫して最も予後が悪いグループを特定する普遍的な指標となります。

『ダブルヒット』という高リスク群に対して、どのような治療戦略を開発すべきなのだろうか、という問いへの答えを探すことこそが、今後の多発性骨髄腫研究における重要な課題となるでしょう。