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がん治療の新たなtrispecific antibody:多発性骨髄腫に対する次世代抗体「ラマンタミグ:Ramantamig (JNJ-79635322)」

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Pillarisetti, Kodandaram et al. “Ramantamig (JNJ-79635322), a novel T-cell-engaging trispecific antibody targeting BCMA, GPRC5D, and CD3, in multiple myeloma models.” Blood, blood.2025030027. 16 Oct. 2025, doi:10.1182/blood.2025030027

多発性骨髄腫(MM)は、依然として完治が難しい血液がんですが、近年の治療法の進歩により、長期的な寛解、さらには治癒の可能性も視野に入る時代となりました。しかし、多くの患者さんにとって治療抵抗性や再発は依然として大きな課題であり、革新的な治療法の登場が切望されています。

こうした状況を打破する可能性を秘めているのが、「ラマンタミグ:Ramantamig (JNJ-79635322)」です。これは「trispecific antibody」と呼ばれる次世代の治療薬であり、がん細胞を攻撃するために複数の標的を同時に狙うアプローチで設計されています。

キーポイント

  • 独自の「三叉槍」構造:ラマンタミグは、骨髄腫細胞上の2つの異なる目印(BCMAとGPRC5D)と、免疫細胞であるT細胞の起動スイッチ(CD3)を同時に捕捉する、世界初のtrispecific antibodyです。
  • 治療抵抗性を防ぐ戦略:がん細胞上の2つの異なる抗原を同時に標的とすることで、がん細胞が片方の目印を隠して免疫システムから逃れる「抗原逃避」による治療の失敗を防ぐよう設計されています。
  • 前臨床試験での高い有効性:ラマンタミグは、実験室レベルの細胞株(in vitro)、患者さんから採取した検体(ex vivo)、そして動物モデル(in vivo)のすべてにおいて、骨髄腫細胞を強力に死滅させることが示され、臨床試験への移行が決定されました。

1. がん細胞を逃さない戦略

がん治療において、患者さん自身の免疫細胞(特にT細胞)の力を利用する「T細胞誘導療法」は、極めて重要な戦略となっています。その基本的な考え方は、抗体医薬を使って免疫細胞(T細胞)とがん細胞の間に「橋」を架け、T細胞にがん細胞を標的とさせて破壊させるというものです。ラマンタミグは、このアプローチをさらに進化させたものです。この抗体は、3つの異なる分子を同時に捕捉します。

  • T細胞の標的(CD3):CD3はT細胞の表面にある「起動スイッチ」のようなものです。ラマンタミグはこのスイッチを捉え、T細胞を攻撃モードに切り替えます。
  • 骨髄腫細胞の標的(BCMA & GPRC5D):BCMAとGPRC5Dは、どちらも骨髄腫細胞の表面に高密度で発現している、2種類の異なる目印です。ラマンタミグは、これらの目印を認識して骨髄腫細胞に結合します。

ラマンタミグは、片方の手でT細胞の起動スイッチを押し、もう一方の二つの手で骨髄腫細胞の目印(BCMAまたはGPRC5D、あるいはその両方)をがっちりと掴みます。これによりT細胞とがん細胞が物理的に引き寄せられ、T細胞が攻撃を開始するための接着面である「免疫シナプス」が形成されます。この接点を介して活性化したT細胞は、パーフォリンやグランザイムといった細胞傷害性の物質を放出し、標的となった骨髄腫細胞を破壊します。

2. 治療抵抗性への新たな対抗策

がん治療における大きな壁の一つが「抗原逃避」と呼ばれる現象です。これは、特定の標的(例えばBCMAのみ)を狙う治療法のプレッシャーにさらされたがん細胞が、その標的を失うように進化し、治療薬から見えなくなることで生き延びようとするメカニズムです。これにより、治療が効かなくなり、再発につながるケースが少なくありません。

ラマンタミグの設計は、この問題に対抗することが可能です。BCMAとGPRC5Dという2つの異なる目印を同時に狙うことで、がん細胞が逃げる道を塞ぐのです。たとえ一部のがん細胞がBCMAを失っても、ラマンタミグは残されたGPRC5Dに結合して攻撃を続けることができます。逆もまた然りです。

この戦略の有効性は、CRISPR技術を用いて遺伝子を操作したH929細胞株を用いた実験で証明されました。

  • ラマンタミグは、BCMAとGPRC5Dの両方を持つ野生型細胞(H929-WT)に対して強力な殺傷効果を示しました。
  • さらに重要なことに、片方の標的を意図的に失わせた細胞(H929-GPRC5D-KOまたはH929-BCMA-KO)に対しても、変わらず強力な細胞死を誘導したのです。

これは、治療の過程で出現する可能性のある、どちらか一方の標的しか持たないがん細胞集団をも排除できる能力を直接的に示す証拠です。これは、ラマンタミグが治療抵抗性クローンを排除する能力を持つだけでなく、本来の標的である二重陽性細胞に対しては、アビディティ効果により桁違いに強力な殺傷能力を発揮することを示唆しています。

3. 実証された有効性:シャーレから動物モデルまで

ラマンタミグは、その有効性を証明するために、一連の前臨床試験を受け、いずれの段階でも有望な結果を示しました。

  • In Vitroでの有効性:シャーレ内での実験では、BCMAとGPRC5Dの発現レベルが異なる複数の多発性骨髄腫細胞株に対して、ラマンタミグは一貫して強力な細胞殺傷効果とT細胞の活性化を誘導しました。これは、標的の発現量に多少のばらつきがあっても効果を発揮できる可能性を示唆します。
  • Ex Vivoでの臨床的妥当性:さらに重要なのは、実際の多発性骨髄腫患者さんから採取した骨髄細胞を用いた実験(ex vivo試験)での結果です。ラマンタミグは、このヒトの疾患環境に極めて近い状況下で、悪性の形質細胞を濃度依存的に減少させました。これは、実際の患者さんにおいても治療効果が期待できることを強く示唆しています。
  • In Vivoでの実証:最終段階として、マウスを用いた動物モデルでの試験が行われました。腫瘍を持つマウスモデル(RPMI 8226およびMM.1S)では、統計的に有意な腫瘍増殖抑制に加え、高用量群では10匹中8匹や9匹中9匹のマウスで腫瘍が完全に消失する「完全寛解」が観察されました。これは、生体内においても強力な抗腫瘍活性を持つことを示唆します。

4. アビディティ効果:二重のグリップがもたらす超強力な殺傷能力

片手で何かを掴むよりも、両手でがっちりと掴んだ方が、はるかに強い力で保持できます。ラマンタミグが骨髄腫細胞の表面にあるBCMAとGPRC5Dの両方に同時に結合すると、これと同じ原理が働き、抗体と細胞との間の全体的な結合力が飛躍的に増大します。これが「アビディティ効果」です。

この効果のインパクトは絶大で、実験データによると、ラマンタミグの殺傷効力は、片方の標的しか持たない細胞株に比べて、両方の標的を持つ細胞株に対して50倍以上も高かったのです。このアビディティ効果は、主要な標的である二重陽性のがん細胞を、極めて効率的に破壊できることを意味します。

この超強力な効力は、より少ない投与量で腫瘍を根絶できる可能性を示唆し、副作用の軽減につながるかもしれません。さらに、このアビディティ効果は、たとえ標的抗原の発現が低い細胞が存在したとしても、それらを効率的に捕捉し破壊する上で有利となる可能性があります。

結論:多発性骨髄腫治療の未来への展望

ラマンタミグは、T細胞上のCD3と骨髄腫細胞上のBCMAおよびGPRC5Dを同時に標的とする、世界初の三重特異性抗体です。その設計は、治療抵抗性といった多発性骨髄腫治療における中心的な課題を克服する大きな可能性を秘めています。前臨床試験で示された強力かつ選択的な抗腫瘍活性に基づき、現在、再発または難治性の多発性骨髄腫患者さんを対象とした第1相臨床試験が進行中です(NCT05652335, NCT06768489)。