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CAR-T療法後の「二次がん」リスク:JAMA Oncologyレビュー論文から読み解く

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Patel, Shyam A et al. “Second Primary Cancer After Chimeric Antigen Receptor-T-Cell Therapy: A Review.” JAMA oncology vol. 11,2 (2025): 174-181. doi:10.1001/jamaoncol.2024.5412

CAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)療法は、一部の血液がん治療において大きな進歩をもたらしました。自身の免疫細胞を遺伝子改変し、がん細胞を特異的に攻撃する「生きた薬」として、これまで治療が困難だった患者に高い効果を示しています。しかし、この革新的な治療法には、最近「二次的ながん(Second Primary Cancers: SPCs)」のリスクという新たな懸念が浮上しています。

主要なポイント

  • CAR-T療法後の二次がんのリスクは実在しますが、その発生率は全体として5%未満と低いことが報告されています。
  • このリスクはCAR-T療法を受けない同種のがん患者のリスクと比較して必ずしも高いわけではありません
  • 二次がんの発生には、治療法自体(遺伝子導入)の極めてまれな影響、過去の化学療法、免疫系の変化など複数のメカニズムが考えられています。
  • 現在、より安全なCAR-T製品の開発や患者スクリーニングの改善など、リスクをさらに低減するための具体的な戦略が進められています。

1. 二次がんのリスクは実在するが、その確率は低い

CAR-T療法後の二次がんリスクに関する懸念は、2023年11月に米国食品医薬品局(FDA)が注意喚起を行ったことから広く知られるようになりました。しかし、この問題を感情論ではなく、データに基づいて客観的に評価することが極めて重要です。

専門家のレビューによれば、FDAは約30,000人のCAR-T療法を受けた患者の中から、20例のT細胞リンパ腫が発生したとの通知を受けました。さらに、複数の研究報告を総合すると、二次がんの発生率は概ね1.7%から4.3%の範囲に収まっています。例えば、国際血液・骨髄移植研究センター(CIBMTR)の大規模なデータでは、11,345人中485人(4.3%)に二次がんが確認されました。

これらの数字は、リスクがゼロではないことを示していますが、同時にその発生頻度が低いことも物語っています。実際、FDA自身も「CAR-T療法の全体的な利益は、二次がんのリスクを上回る」との見解を示しており、これは専門家コミュニティの現在のコンセンサスを反映しています。

2. CAR-T未治療の患者よりリスクが高いわけではない

リスクを正しく評価するためには、適切な比較対象が不可欠です。CAR-T療法後の二次がんリスクを、この治療を受けなかった同様の血液がん患者群のリスクと比較することは、極めて重要な視点を提供します。

非ホジキンリンパ腫や多発性骨髄腫の患者がCAR-T療法を受けなかった場合の二次がん発生率は、疾患の種類によって4%から20%の範囲に及ぶと報告されています。

一方で、CAR-T療法を受けた患者の発生率は、主要な臨床試験において3%から8%の範囲でした。この二つの数値を直接比較すると、「CAR-T療法を受けたからといって、二次がんのリスクが著しく高くなるわけではない」という、結論が導き出されます。ただし、これらの研究間で報告されている追跡期間は異なっており、真の長期リスクを理解するにはさらなる観察が必要であるという重要な注意点があります。

3.リスクの正体:なぜ二次がんは発生するのか?

リスクを正しく理解し、将来的により安全な治療法を開発するためには、二次がんが発生する生物学的なメカニズムを解明することが不可欠です。二次がんの発生は、主に3つのメカニズムから生じると考えられています。

第一に、遺伝子への挿入変異 (Insertional Mutagenesis) です。CAR-T細胞を作製する際、CAR遺伝子をT細胞に導入するためにウイルスベクターが使われます。ごくまれに、このベクターがT細胞のゲノム(全遺伝情報)の予期せぬ場所に組み込まれ、細胞のがん化を引き起こすことがあります。これが、CAR遺伝子自体が陽性となる「トランスジーン陽性」のがんの正体です。このメカニズムは最も直接的な原因とされますが、その発生は極めてまれで、これまでに明確に記録されているのはわずか2例のみです。

第二に、既存の要因と化学療法の影響(Myeloid transformation) です。CAR-T療法を受ける患者の多くは、それ以前に複数の強力な細胞傷害性化学療法を経験しています。これらの治療は骨髄の造血システムにダメージを与え、がん化しやすい素地を持つ細胞クローンが選択的に増殖する土壌を作り出すことがあります。この状態はクローン性造血(CHIP)として知られ、CAR-T療法自体が原因というよりは、過去の治療歴が二次がんの「土壌」となっている可能性を示唆しています。

第三に、免疫系の機能不全 (Immune Dysregulation) です。CAR-T療法を行う直前には、体内のリンパ球を一時的に減少させる「リンパ球除去化学療法」が行われます。これはCAR-T細胞が体内で増殖し、効果を発揮しやすくするために不可欠な処置です。しかし、同時にがん細胞を監視・排除する免疫システム全体の機能が低下するため、この免疫の「隙」を突いて、新たながん細胞が増殖してしまう可能性も指摘されています。

4. CAR-T療法はさらに安全になる

科学界と医療界は、二次がんのリスクを深刻に受け止め、この画期的な治療法をさらに安全なものにするために、予防医学の観点から多角的なアプローチで研究開発を進めています。

一次予防:製造技術の最適化

リスクを根本から断つための戦略として、CAR-T細胞の製造プロセス自体の改良が進められています。例えば、CRISPR-Cas9のような、ウイルスを使わない精密な遺伝子編集技術の利用がその一つです。この技術により、CAR遺伝子を「ゲノムセーフハーバー」と呼ばれる、遺伝子を挿入しても既存の重要な遺伝子の機能を妨げたり、がん化を引き起こしたりする危険のない、ゲノム上の安全な場所に正確に配置することが可能になります。これにより、挿入変異のリスクを劇的に低減することが期待されています。

二次予防:事前のリスク評価

治療を受ける前に個々の患者のリスクを評価し、対策を講じることも重要です。その一つが、クローン性造血(CHIP)の有無をスクリーニングすることです。前述の通り、CHIPは二次がん、特に骨髄性腫瘍のリスクを高める可能性が指摘されています。また、がんを発症しやすい遺伝的素因をあらかじめ調べることも有効です。これらのスクリーニングにより、リスクの高い患者を事前に特定し、より慎重な経過観察を行うといった個別化されたアプローチが可能になります。

三次予防:治療後の監視と情報共有

治療後のリスク管理として、早期発見とデータ集約が鍵となります。定期的な検診による早期発見体制の構築は、万が一二次がんが発生した場合でも、早期に対応するために不可欠です。さらに、発生した症例をCIBMTRのような中央登録機関に正確に報告し、データを集約することが極めて重要です。これにより、リスク要因のさらなる解明が進み、将来の予防戦略や治療法の改善に繋がります。

これらの継続的な取り組みが、CAR-T療法のリスクとベネフィットのバランスを、さらに良い方向へと導いていくことは間違いありません。

結論

CAR-T療法後の二次がんリスクはゼロではありません。しかし、そのリスクは全体として低く、患者がもともと持っていたリスクや過去の治療歴といった文脈の中で理解することが重要です。この問題は決して無視されているわけではなく、むしろ世界中の専門家たちが積極的に原因を解明し、より安全な治療法を開発するために全力で取り組んでいます。

CAR-T療法という「生きた薬」が今後も進化を続ける中で、私たちはその計り知れない恩恵と、まれではあるが深刻なリスクとのバランスを、どのようにとっていくべきかという点については、 正確な情報に基づいた冷静な議論が重要と考えられます。

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