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【MajesTEC-3】Teclistamab-Daratumumab併用療法が多発性骨髄腫治療の常識を覆す成績を示す

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Costa, Luciano J et al. “Teclistamab plus Daratumumab in Relapsed or Refractory Multiple Myeloma.” The New England journal of medicine, 10.1056/NEJMoa2514663. 9 Dec. 2025, doi:10.1056/NEJMoa2514663

多発性骨髄腫を抱える患者さんにとって、初期治療後の再発は非常に重大な問題です。この「再発・難治性」という段階を乗り越えることは、最も困難な課題の一つとされてきました。しかし今、この困難な状況に一筋の光を当てる、驚くべき研究結果が報告されました。「MajesTEC-3」と名付けられたこの臨床試験の素晴らしいデータをご紹介します。

キーポイント

  • 驚異的なリスク低減: 新しい併用療法は、病気の進行または死亡のリスクを83%という、がん治療の世界では異例とも言えるレベルで低減させました。
  • より「深い寛解」: 多くの患者で、高感度の検査でも検出できないレベルまでがん細胞を消し去る「深い寛解」が達成されました。
  • 長期生存への希望: 生存率を示す曲線が平坦化する「生存曲線プラトー」という新たな兆候が見られ、長期的な生存が期待できる時代の到来を示唆しています。
  • 管理可能なリスク: 治療初期の感染症などのリスクは存在するものの、予防策の確立により、そのリスクはより深く理解され、管理可能であることが示されました。

MajesTEC-3試験の概要

この画期的な結果を生み出した臨床試験の基本情報を以下にまとめます。

  • 試験の名称: MajesTEC-3
  • 試験のフェーズ: 第3相臨床試験
  • 対象患者: 1~3回の前治療歴がある再発または難治性の多発性骨髄腫患者
  • 比較対象:
    • 試験群: テクリスタマブとダラツムマブの併用療法 (Teclistamab-Daratumumab)
    • 対照群: ダラツムマブ、デキサメタゾンにポマリドミドまたはボルテゾミブを組み合わせた標準治療 (DPdまたはDVd)
  • 主要評価項目: 無増悪生存期間 (PFS) – 病気が悪化せずに生存している期間
  • 主な副次評価項目: 全生存期間 (OS)、完全奏効率、微小残存病変 (MRD) 陰性率

1. 驚異的な有効性:病気の進行リスクを83%も低減

新しい治療法がどれほど優れているかを評価する上で、最も重要な指標の一つが「無増悪生存期間(PFS)」です。MajesTEC-3試験において、Teclistamab-Daratumumab併用療法はPFSで圧倒的な優位性を示しました。

試験結果は、病気が進行するか死亡に至るリスクを示す「ハザード比」が0.17であったと報告しています。これは、標準治療と比較してリスクを83%も低減させたことを意味します。これほどの規模のリスク低減は極めて稀であり、素晴らしい結果と考えられます。この数字のインパクトは、3年後(36ヶ月時点)の生存率でもしっかりと示されています。

36ヶ月時点での無増悪生存率(PFS)

  • 新併用療法群: 83.4%
  • 標準治療群: 29.7%

3年が経過した時点で、Teclistamab-Daratumumab併用療法を受けた患者さんの8割以上が病気の悪化なく生存していたのに対し、標準治療では3割未満にとどまりました。

2. より「深い寛解」の達成:見えないがん細胞の根絶を目指す

多発性骨髄腫の治療における究極の目標は、単に症状を和らげることではなく、体内に潜むがん細胞を検出不可能なレベルまで根絶すること、すなわち「深い寛解」を達成することにあります。MajesTEC-3試験では、この点においても素晴らしいデータがみられています。

治療効果の深さを測る指標として、「完全奏効(CR)」と、さらに高感度な検査でごく微量のがん細胞の有無を調べる「微小残存病変(MRD)」があります。MRDが陰性であることは、より長期の寛解維持や生存期間の延長につながると期待されています。

Teclistamab-Daratumumab併用療法群では、完全奏効以上の効果が見られた患者は81.8%に達しましたが、実に77.3%が最も厳しい基準である「厳格な完全奏効(sCR)」を達成していました。

寛解の「深さ」の比較

  • 完全奏効以上の割合(CRR):
    • 新併用療法群: 81.8%
    • 標準治療群: 32.1%
  • MRD陰性率(10⁻⁵レベル):
    • 新併用療法群: 58.4%
    • 標準治療群: 17.1%

Teclistamab-Daratumumab併用療法を受けた患者さんの約6割がMRD陰性という極めて良い結果が示されています。これは骨髄腫細胞を強力に排除する力を持っていることを意味しています。

3. 「生存曲線プラトー」という長期生存への希望

あらゆるがん治療の最終的な目標は、言うまでもなく「生存期間の延長」です。MajesTEC-3試験は、これまで難治とされてきたこの疾患に対し、長期生存という新たな希望をもたらす可能性を示唆しています。

試験では、全生存期間(OS)においても有意な改善が認められました。

36ヶ月時点での全生存率

  • 新併用療法群: 83.3%
  • 標準治療群: 65.0%

ここで注目すべきポイントは、「生存曲線プラトー」と呼ばれる状態です。生存曲線は時間と共に平坦化し始め、治療開始6ヶ月時点で生存していた患者の割合が92.2%であったのに対し、30ヶ月時点でも依然として84.3%という非常に高い割合の患者が生存していました。この曲線の平坦化、すなわち「プラトー」は、治療に奏効した多くの患者が、これまで達成不可能と考えられてきた持続的で長期的な生存を得られる可能性を示唆しています。

これは、一部の患者さんが再発することなく、長期にわたって生存できる可能性を意味します。これまで「不治の病」とされてきた多発性骨髄腫において、長期的なコントロールが可能な時代の到来を予感させる、極めて重要なデータと言えるでしょう。

4. 注意すべき安全性プロファイル

重篤な有害事象の発生率は、Teclistamab-Daratumumab併用療法群の方が高い結果でした(70.7% vs. 62.4%)。特に治療初期には、感染症による死亡例が報告され、OS曲線もクロスしています。重要なことに、感染症に関連する13件の死亡のうち12件は、免疫グロブリン補充を強化するようプロトコルが改訂される前に発生していました。この発見に基づき、免疫グロブリンの予防的投与が標準的な対策として確立され、その後の死亡例は大幅に減少しました。

また、免疫療法に特有の副作用であるサイトカイン放出症候群(CRS)は、60.1%の患者で発生しましたが、そのすべてがグレード1または2であり、重症例はありませんでした。これは、CRSが予測可能であり、管理可能であることを示唆しています。

5. 「既製品(Off-the-Shelf)」であることの価値

治療の価値は、どれだけ多くの患者さんに、どれだけ迅速に届けられるかという「アクセス性」もまた、極めて重要な要素です。

この治療法は「Off-the-Shelf(既製品)」と呼ばれるタイプの医薬品です。これは、患者さん一人ひとりの細胞を採取して製造するCAR-T療法のような「オーダーメイド治療」とは異なり、あらかじめ工場で生産され、必要な時にすぐに使用できることを意味します。

この「既製品」であることの価値は、単なる物流上の利点にとどまらず、患者さんがこの革新的な免疫療法を、一部の主要な大学病院だけでなく、自宅やサポートしてくれる家族の近くにある、地域の中核病院で受けられるようになる可能性を意味します。高い有効性と優れたアクセス性を両立させるこの治療法は、一部の専門施設だけでなく、より多くの患者さんがその恩恵を受けられる、真に実用的な治療の選択肢となる可能性を秘めています。

結論

MajesTEC-3試験が示したteclistamabとdaratumumabの併用療法は、単なる延命効果にとどまらない、多角的な価値を提示しました。83%という驚異的なリスク低減、MRD陰性という深い寛解の達成、生存曲線プラトーという長期生存への希望、管理可能な安全性プロファイル、そして「既製品」としての優れたアクセス性。これらの要素が組み合わさることで、この治療法は多発性骨髄腫の治療パラダイムを根底から変える可能性を秘めています。

感染症などの管理すべきリスクは存在するものの、その圧倒的な有効性と実用性は、これまでの治療の限界を打ち破るレベルと考えられ、今後の多発性骨髄腫の治療に大きな影響を与えると考えられます。