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【ALPHA/ALPHA2試験】「既製品」のallo CAR-T療法の有効性と安全性

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Locke, Frederick L et al. “Allogeneic Chimeric Antigen Receptor T-Cell Products Cemacabtagene Ansegedleucel/ALLO-501 in Relapsed/Refractory Large B-Cell Lymphoma: Phase I Experience From the ALPHA2/ALPHA Clinical Studies.” Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology vol. 43,14 (2025): 1695-1705. doi:10.1200/JCO-24-01933

キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法は、一部のがん患者に劇的な効果をもたらし、血液がん治療に革命を起こしました。患者自身の免疫細胞(T細胞)を遺伝子操作してがんを攻撃する薬は、まさに個別化医療の最前線です。しかし、この治療用の細胞を製造するには4〜6週間もの時間が必要で、その間にも病状は進行します。さらに、時に生命を脅かすほどの重篤な副作用は、治療の大きな障壁となってきました。

もし、この治療が健康なドナーからあらかじめ大量に製造され、必要な時にすぐ使える「既製品(オフ・ザ・シェルフ)」になった場合は大きなメリットがあると考えられます。本論文では、cema-celとALLO-501を用いた同種(Allo:アロジェニック)CAR-T細胞療法の第I相臨床試験の結果を示しています。

キーポイント

  • 劇的な時間短縮: 患者自身の細胞を待つ数週間ではなく、登録からわずか数日で治療を開始できる。
  • 驚くべき安全性: 従来のCAR-T療法で見られた重篤な副作用(サイトカイン放出症候群や神経毒性)が報告されなかった。
  • 持続的な効果: 治療が困難な患者において、4年を超える寛解維持例を含む、長期的な効果が確認された。
  • 新たな治療戦略: 「地固め療法」としての可能性が示唆された。

ALPHA/ALPHA2試験試験の概要

  • 試験フェーズ: 第I相臨床試験
  • 対象疾患: 再発・難治性 大細胞型B細胞リンパ腫(R/R LBCL)
  • 対象患者: 33名のCD19 CAR-T療法未治療の患者
  • 主要評価項目: cema-cel/ALLO-501およびALLO-647の最大耐用量と推奨第II相試験用量の決定
  • 副次評価項目: 安全性プロファイル、薬物動態/薬力学、および有効性(全奏効率)の評価
  • 主要な結果(有効性):
    • 全奏効率(ORR): 58%
    • 完全寛解率(CR): 42%
    • 完全寛解(CR)を達成した患者における奏効期間(DOR)の中央値: 23.1ヶ月
  • 主要な結果(安全性):
    • グレード3以上のサイトカイン放出症候群(CRS): 0%
    • 免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS): 0%
    • 移植片対宿主病(GVHD): 0%

1. 「待ち時間ゼロ」へ:既製品CAR-Tが治療アクセスを劇的に変える

CAR-T療法がより多くの患者を救う治療法となるためには、「必要な時に、すぐに使える」ことが不可欠です。従来の自己CAR-T療法は、この点が最大の欠点となっていました。というのも、従来の自己CAR-T療法は、患者一人ひとりのためにオーダーメイドで作られるからです。まず、患者からT細胞を採取(アフェレーシス)し、それを専門の施設に輸送して遺伝子改変を行い、増殖させてから再び患者の元へ戻します。この全工程には約4〜6週間を要します。しかし、進行の速い悪性リンパ腫の患者にとって、この1ヶ月以上の待ち時間は致命的になりかねません。病状の悪化を抑えるために「ブリッジング治療」が必要となることも多く、製造を待つ間に治療機会を失ってしまう患者もいました。

これに対し、本研究で用いられた同種CAR-T製品は、健康なドナーのT細胞を元にあらかじめ大量に製造され、いつでも使えるように冷凍保存されているのです。これにより、患者は「オンデマンド」で治療を受けることが可能になります。本臨床試験では、患者登録から治療開始までの中央値は、わずか2日でした。

この「ほぼ待ち時間ゼロ」という状況は、臨床現場に大きなインパクトをもたらします。ブリッジング治療の必要性がなくなり、これまで時間的な制約から治療を諦めざるを得なかった患者にも投与することができるのです。

2. 有効性はそのままに、重篤な副作用を回避?

従来のCAR-T療法では、2つの重篤な副作用の懸念があります。一つは、サイトカイン放出症候群(CRS)、もう一つは、錯乱や言語障害などを引き起こす免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群(ICANS)です。これらは時に生命を脅かし、集中治療室での管理を必要とするため、治療を受けられる施設が限られる原因ともなっています。

本研究が示した安全性プロファイルは、対象となった33人の患者において、グレード3以上の重篤なCRSは0件、ICANSも0件でした。さらに、ドナー由来の細胞が患者の体を異物と認識して攻撃する、同種移植における最大の懸念である移植片対宿主病(GVHD)も全く報告されませんでした。

試験間の単純比較には注意が必要ですが、従来のauto CAR-T療法の主要な臨床試験でグレード3以上のCRSが2〜22%、ICANSが10〜32%程度報告されていることを考慮すると、良好であることが示唆されます。このような安全性が大規模試験でも実証されれば、入院期間の短縮や、将来的には外来での治療も視野に入り、身体的・精神的な負担だけでなく、医療経済的な負担の軽減にも繋がる可能性があります。

3. 難治性リンパ腫における持続的な完全寛解

この研究に参加したのは、治療が極めて困難な、中央値で3つ前治療歴を持つ「再発・難治性」の大細胞型B細胞リンパ腫(LBCL)の患者です。このような患者群に対する既存の治療選択肢は限られており、予後は極めて厳しいとされています。

このような患者群に対して、cema-celは非常に有望な結果を示しました。全患者における全奏効率(ORR)は58%、そして完全寛解率(CR)は42%に達しました。特に、今後の標準治療として推奨される投与レジメンを受けた患者群では、CR率は58%まで上昇しました。さらに、完全寛解(CR)を達成した患者において、奏効が続いた期間の中央値は23.1ヶ月(約2年)であり、4年を超えて寛解を維持している患者も報告されています。

4. 「見えないがん」を叩く早期介入戦略

研究データを詳細に分析したところ、治療開始前の腫瘍量が少ない患者ほど、完全寛解率が高かったことが明らかになりました。腫瘍量が少ない患者群では6名中6名(100%)、そして腫瘍量の指標となる血清LDH値が正常だった患者群でも11名中9名(82%)が完全寛解を達成しました。これは、がん細胞が少ない段階で介入する方が、より高い治療効果を期待できることを示唆しています。

この知見は、全く新しい治療コンセプトへと繋がります。現在の標準的な化学療法の後、画像診断上はがんが消失したと判断されても、「微小残存病変(MRD)」が後の再発の火種となります。この治療法が持つ安全性は、初回治療を終えて寛解状態にある患者に対し、再発予防目的で積極的に介入する「地固め療法」として使用するという戦略を現実的なものにしているのです。この仮説を検証するため、現在、第III相臨床試験である「ALPHA3試験」が進行中です。この試験では、初回治療後にMRD陽性が確認された患者を対象に、cema-celが再発を防げるかを検証しています。もしこのアプローチが成功すれば、大細胞型B細胞リンパ腫の標準治療を変える画期的な治療となるでしょう。

まとめ

本臨床試験で検証された「off-the-shelf」CAR-T療法は、「即時性(治療開始まで中央値2日)」、「高い安全性(重篤な副作用ゼロ)」、そして「持続的な効果(CRで約2年の寛解維持)」という、非常に良好な結果を示しました。本研究が示した高い安全性と、腫瘍量が少ない段階での著しい有効性は、進行して再発したがんを治療するのではなく、初回治療後の地固め療法での使用を積極的に考慮する結果でした。進行中のALPHA3試験がこの仮説を証明すれば、「既製品」CAR-T療法は、がん治療を大きく変えるかもしれません。