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【BRUIN CLL-321試験】難治性CLL治療の新たな光:ピルトブルチニブ(pirtobrutinib)の有効性と安全性

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Sharman, Jeff P et al. “Phase III Trial of Pirtobrutinib Versus Idelalisib/Rituximab or Bendamustine/Rituximab in Covalent Bruton Tyrosine Kinase Inhibitor-Pretreated Chronic Lymphocytic Leukemia/Small Lymphocytic Lymphoma (BRUIN CLL-321).” Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology vol. 43,22 (2025): 2538-2549. doi:10.1200/JCO-25-00166

慢性リンパ性白血病(CLL)は、欧米では成人に最も多く見られる白血病の一種です。近年、共有結合型ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬(cBTKi)と呼ばれる分子標的薬の登場により、その治療は大きく進歩しました。しかし、これらの標準治療薬が効果を示さなくなった、あるいは副作用のために継続できなくなった患者さんにとって、次の有効な治療選択肢は限られており、深刻なアンメット・メディカル・ニーズが存在していました。

この課題に対し、非共有結合型BTK阻害薬である「ピルトブルチニブ:pirtobrutinib」が開発され、有効性と安全性を検証するために実施されたのが、第III相臨床試験「BRUIN CLL-321」です。

キーポイント

  • がんの進行を大幅に抑制: ピルトブルチニブは、既存のBTK阻害薬による治療後に再発・難治性となったCLL患者において、医師が選択する標準的な治療法と比較して、がんの進行または死亡のリスクを46%低下させました。
  • 良好な安全性と忍容性: 副作用による治療中止率が標準治療群の約半分と低く、患者が治療をより長く継続できる可能性が示されました。特に、従来のBTK阻害薬で懸念される心血管系の副作用は稀でした。
  • 実臨床での価値を示す指標を改善: 次の治療を開始するまでの期間(TTNT)の中央値を24ヶ月と、標準治療群の10.9ヶ月から2倍以上に延長し、実臨床における長期的なベネフィットが示唆されました。

BRUIN CLL-321試験の概要

BRUIN CLL-321試験は、cBTKiによる前治療歴のあるCLL患者集団を対象とした、無作為化比較第III相試験です。

  • 試験フェーズ: 第III相、無作為化、非盲検、国際共同試験
  • 対象患者: 共有結合型BTK阻害薬(cBTKi)による前治療歴のある再発・難治性の慢性リンパ性白血病(CLL)または小リンパ球性リンパ腫(SLL)の患者238名
  • 比較対象: ピルトブルチニブ投与群(119名) vs. 医師選択治療(Investigator’s Choice: IC)群(119名:イデラリシブ+リツキシマブまたはベンダムスチン+リツキシマブ)
  • 主要評価項目: 独立評価委員会(IRC)が評価した無増悪生存期間(PFS)
  • 主な副次評価項目: 全生存期間(OS)、次治療開始までの期間または死亡までの期間(TTNT)、安全性

がんの進行を大幅に遅らせることに成功

本試験の最も重要な結果は、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)の有意な改善です。ピルトブルチニブを投与された患者群のPFS中央値が14ヶ月(95% CI, 11.2~16.6ヶ月)であったのに対し、医師選択治療群では8.7ヶ月(95% CI, 8.1~10.4ヶ月)でした。これは、ハザード比(HR)0.54という数値で示され、ピルトブルチニブが病気の進行または死亡のリスクを46%低下させたことを意味します。

この結果の重要性について、『Journal of Clinical Oncology』のAssociate EditorであるCharles Craddock氏は、次のようにその重要性を解説しています。

Pirtobrutinib represents an important new treatment option in patients with CLL/SLL which has progressed after prior treatment with a cBTKi. (ピルトブルチニブは、cBTKiによる前治療後に進行したCLL/SLL患者にとって、重要な新しい治療選択肢となる。)

この結果が特に意義深いのは、対象となった患者集団が、中央値で3つもの前治療歴を持ち、多くが予後不良とされる遺伝子変異を持つ、非常に治療が難しいハイリスクな集団だった点にあります。このような厳しい条件下で達成されたPFSの延長は、「統計学的に有意かつ臨床的に意義深い」結果であると示唆されます。

より忍容性の高い治療選択肢としての可能性

どんなに効果的な薬剤でも、副作用が強すぎて治療を続けられなければ意味がありません。その点で、ピルトブルチニブは優れた安全性と忍容性を示しました。

  • 重篤な副作用の発生率が低い: グレード3以上の治療中に発現した有害事象(TEAEs)の発生率は、ピルトブルチニブ群(57.7%)の方が医師選択治療群(73.4%)よりも低く抑えられていました。
  • 治療中止に至るケースが少ない: 有害事象が原因で治療を中止した患者の割合は、ピルトブルチニブ群が17.2%であったのに対し、医師選択治療群では34.9%と、ピルトブルチニブ群はその半分以下でした。
  • BTK阻害薬特有の副作用が稀: 従来のBTK阻害薬でしばしば問題となる心房細動はピルトブルチニブ群で3名(2.6%)と稀で、高血圧も医師選択治療群と同程度(6.9% vs 3.7%)でした。

これらのデータが示すのは、ピルトブルチニブが単に有効であるだけでなく、患者がより長く、安全に治療を継続できる可能性を秘めているということです。

「次治療までの期間」を2倍以上に延長

PFSは臨床試験における重要な指標ですが、実際の臨床現場での患者さんの状態をより良く反映する指標として「次治療までの期間または死亡までの期間(TTNT)」が注目されています。これは、現在の治療が効果を失い、次の新しい治療を必要とするまでの期間を示します。

  • ピルトブルチニブ群のTTNT中央値:24ヶ月
  • 医師選択治療群のTTNT中央値:10.9ヶ月

ピルトブルチニブは、次の治療が必要になるまでの期間を2倍以上に延長しました(HR 0.37)。興味深いのは、TTNTの改善幅がPFSの改善幅を上回っている点です。これは、ピルトブルチニブ群では、画像検査上でがんの進行が確認された後も、臨床的なベネフィットが続いていると判断され、治療を継続した患者が多かった(38.6% vs 1.5%)ということを示唆します。つまり、画像上の進行が必ずしも直ちに臨床的な症状の悪化を意味しないという実臨床の状況を反映しており、ピルトブルチニブが持続的な病状コントロールをもたらすことで、次の治療への移行を実質的に遅らせる価値を示唆しています。

全生存期間(OS)に見られた「クロスオーバー」の影響

最後に、最も重要な指標の一つである全生存期間(OS)について見ていきます。本試験の18ヶ月時点でのOS率は、ピルトブルチニブ群で73.4%、医師選択治療群で70.8%であり、両群間に統計的な有意差は認められませんでした(HR 1.09)。

その最大の理由は「クロスオーバー」と考えられます。本試験では、医師選択治療群で病状が進行した患者のうち、実に76%が試験の規定に基づき、ピルトブルチニブの投与へと移行(クロスオーバー)しました。つまり、比較対象群の患者も最終的にピルトブルチニブの恩恵を受けたため、両群のOSに差が出にくくなったと考えられます。

まとめ

BRUIN CLL-321試験は、cBTKiによる前治療歴のあるCLL/SLL患者という、これまで明確な標準治療が存在しなかった集団を対象とした第III相無作為化比較試験であり、その意義は非常に大きいものです。

本試験により、ピルトブルチニブはこの治療困難な患者集団において、以下の3つの主要なベネフィットを明確に示しました。

  1. 無増悪生存期間(PFS)の有意な改善
  2. 副作用が少なく継続しやすい良好な安全性プロファイル
  3. 実臨床での価値を反映する次治療までの期間(TTNT)の大幅な延長

これらの結果は、アンメット・メディカル・ニーズに応える新たな標準治療の確立に向けた、大きな一歩と考えられます。本試験の特に優れたTTNTの結果は、論文の考察でも述べられているように、「ピルトブルチニブをベネトクラクスよりも先に使う」という新たな治療シークエンスの可能性を提起します。効果と安全性のプロファイルが異なるこれらの薬剤を、どのような順番で使っていくことが患者にとって最適なのかは、今後の研究と議論によって、さらなる治療の最適化へとつながっていくと考えられます。