Endocrinology PR

【SCALE Kids試験】子供の肥満治療にGLP-1作動薬「リラグルチド」が6〜11歳で示した効果

記事内に商品プロモーションを含む場合があります

Fox, Claudia K et al. “Liraglutide for Children 6 to <12 Years of Age with Obesity – A Randomized Trial.” The New England journal of medicine vol. 392,6 (2025): 555-565. doi:10.1056/NEJMoa2407379

小児肥満は、単なる体重の問題ではなく、深刻な慢性疾患です。しかしこれまで、12歳未満の子供たちに対する有効な薬物治療の選択肢は極めて限られていました。それに対して行われた本研究が、GLP-1受容体作動薬として知られる「リラグルチド: liraglutide」を、6歳から11歳の肥満児を対象に検証した「SCALE Kids試験」です。

キーポイント

  • 顕著なBMI改善効果: リラグルチドを投与された子供たちは、生活習慣指導のみのグループ(プラセボ)と比較して、56週間後にBMIが統計的に有意に減少しました。
  • 管理可能な副作用: 主な副作用は吐き気や嘔吐といった消化器系の症状でしたが、その多くは軽度から中等度であり、用量調整や一時的な中断によって管理可能でした。
  • 肥満は「慢性疾患」であることの証明: 治療中止後に体重は増加しましたが、プラセボ群との比較では治療効果の持続が示唆され、肥満が短期的な治療ではなく継続的な管理を要する状態であることが裏付けられました。

1. 試験の概要:SCALE Kids試験

  • 試験のフェーズ (Phase of the trial): 本試験は、第3a相、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照比較試験として実施されました。
  • 主要評価項目 (Primary endpoint): 最も重要な評価項目は、試験開始時(ベースライン)から56週後までの体格指数(BMI)の変化率でした。
  • 副次評価項目 (Secondary endpoints): 主要評価項目を補完する重要な指標として、体重の変化率、そしてBMIが5%以上減少した参加者の割合が設定されました。
  • 参加者 (Participants): 対象は肥満と診断された6歳以上12歳未満の子供たち82名です。参加者は、リラグルチドを投与するグループ(56名)と、有効成分を含まないプラセボを投与するグループ(26名)に2:1の割合でランダムに割り付けられました。両グループともに、資格を持つ医療専門家による個別カウンセリングを毎回受け、健康的な食事と1日60分の中〜高強度の身体活動を奨励されるという、質の高い生活習慣への介入が行われました。

2. BMIへの明確な効果

この試験における最大の焦点は、リラグルチドが質の高い生活習慣の改善だけでは得られない、統計的に意味のあるBMIの減少をもたらすかどうかでした。56週間の治療期間が終了した時点で、主要評価項目であるBMIの平均変化率は、リラグルチド群で -5.8% であったのに対し、プラセボ群では +1.6% でした。両群の差は-7.4パーセンテージポイント(P<0.001)と推定され、統計的に極めて有意な差が認められました。これは、専門家による生活習慣指導を受けてもBMIが増加傾向にあった子供たちがいた一方で、リラグルチドを使用した子供たちは顕著なBMIの減少を達成したことを意味します。

さらに、臨床的に意味のある改善とされる「BMIが5%以上減少」を達成した参加者の割合にも大きな差が見られました。リラグルチド群では 46% の子供がこの目標を達成したのに対し、プラセボ群ではわずか 9% でした。これは、リラグルチドを投与された子供が、プラセボの子供に比べて 6倍以上 この目標を達成しやすかったことを示しています。

これらの主要な結果に加え、他の指標もリラグルチドの有効性を裏付けています。年齢と性別による成長の影響を補正した指標である「BMI標準偏差スコア(SDS)」の変化量は、プラセボ群と比較して-0.4と、リラグルチド群で有意に大きな改善を示しました。この改善幅は、思春期の子供を対象とした同様の試験(SCALE Teens試験)で見られた効果のほぼ2倍に達しており、より低年齢での治療が大きな効果をもたらす可能性を示唆しています。

3. 副作用と注意点

有害事象の全体的な発生率は、リラグルチド群(89%)とプラセボ群(88%)でほぼ同等でした。しかし、その内訳には明確な違いが見られました。

  • 消化器系の有害事象は、リラグルチド群でプラセボ群よりも顕著に多く報告されました(80% vs 54%)。
  • 最も頻度が高かったのは吐き気と嘔吐で、主に薬の投与量を増やしていく期間中に発生しました。
  • これらの事象のほとんどは軽度から中等度であり、時間経過とともに解消されました。また、これらの症状は、リラグルチドの用量を減らしたり(参加者の27%)、一時的に投与を中断したり(参加者の5%)することで管理されました。

重篤な有害事象はリラグルチド群の12%、プラセボ群の8%で報告されました。ここで重要なのは、リラグルチドが単独で用いられたのではなく、すべての参加者が受けた生活習慣への介入の補助療法として投与されたという点です。薬物療法は、あくまで健康的な生活習慣を土台とした上で、その効果を高めるためのツールとして位置づけられています。

4. 「慢性疾患」としての肥満

肥満治療における重要な問いの一つは、「治療を止めると効果は持続するのか?」という点です。この試験の追跡期間(56週から82週)のデータは、肥満が「治癒」するものではなく、継続的な管理が必要な慢性疾患であるという医学的見解を裏付けるものでした。

56週間の治療期間が終了した後、リラグルチド群ではBMIと体重が再び増加に転じました。56週時点でのBMIの平均変化率は-6.7%でしたが、治療中止から26週間後の82週時点では-0.8%まで戻りました。この体重の再増加は、薬物療法が対症療法であり、肥満という病態そのものを根治させるものではないことを示唆しています。

しかし、年齢と性別で補正した「95パーセンタイルに対するBMIの割合」という指標を見ると、追跡期間中もリラグルチド群はプラセボ群よりも低い値を維持し続けました。これは、治療によって得られた恩恵が、治療中止後もある程度持続していたことを示しています。この知見は、肥満が短期的な介入で解決するものではなく、長期的な視点での継続的な管理戦略がいかに重要であるかを示唆しています。

おわりに

SCALE Kids試験は、リラグルチドが生活習慣のサポートと組み合わせることで、6歳から11歳の子供たちの肥満を管理するための強力な新しい選択肢となり得ることを示しました。一方で、参加者の約7割が白人であったため、他の人種への一般化には注意が必要であり、より長期的なデータも待たれます。小児肥満治療は、新たな時代の入り口に立っているのかもしれません。