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【ATTAIN-2試験】注射薬に匹敵する「飲む」肥満症治療薬? 新しい経口GLP-1作動薬「オルフォグリプロン」の可能性

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Horn, Deborah B et al. “Orforglipron, an oral small-molecule GLP-1 receptor agonist, for the treatment of obesity in people with type 2 diabetes (ATTAIN-2): a phase 3, double-blind, randomised, multicentre, placebo-controlled trial.” Lancet (London, England) vol. 406,10522 (2026): 2927-2944. doi:10.1016/S0140-6736(25)02165-8

2型糖尿病を合併する肥満症の治療は、多くの患者と医療従事者にとって大きな課題です。現在、治療の主流となっているGLP-1受容体作動薬は高い効果を示しますが、その多くは注射薬です。そのため、コールドチェーン(低温物流)による流通・保管の必要性、注射部位反応のリスク、そして針に対する不快感や恐怖といった課題が、治療継続の障壁となることも少なくありませんでした。

こうした課題を克服する可能性を秘めた、新しい「飲む」タイプの治療薬が登場しました。既存の経口薬と異なり食事や水分の摂取制限が不要な低分子作動薬「オルフォグリプロン(orforglipron)」は、その筆頭です。

キーポイント

  • 注射薬に迫る体重減少効果: 経口薬でありながら、最高用量では既存の注射薬(セマグルチド)の臨床試験で見られた結果と同等の、約10%という顕著な体重減少効果を示しました。
  • 食事・水分制限が不要な利便性: 既存の経口GLP-1作動薬とは異なり、低分子化合物であるため服用時に厳しい食事や水分摂取の制限がなく、患者の利便性を大幅に向上させる可能性を秘めています。
  • 体重と血糖値へのダブルのメリット: 2型糖尿病を合併する肥満症患者に対し、体重減少だけでなく、血糖コントロールの指標であるHbA1cを最大1.66%低下させるなど、血糖管理においても高い効果を発揮しました。

ATTAIN-2試験の概要

  • 試験のフェーズ: 第3相、二重盲検、ランダム化、プラセボ対照、多施設共同試験
  • 対象患者: BMIが27以上で、HbA1cが7-10%の2型糖尿病を有する成人 1613名
  • 主要評価項目: ベースラインから72週目までの体重の平均変化率
  • 主な副次評価項目: 5%以上の体重減少を達成した参加者の割合、HbA1cの変化、ウエスト周囲径の変化、空腹時血糖値の変化など
  • 安全性: 有害事象の発生頻度は、GLP-1作動薬クラスで一般的に見られる消化器系の事象(吐き気、下痢、嘔吐など)が中心でした。その多くは軽度から中等度であり、主に用量を増やしていく期間に多く見られました。試験期間中にオルフォグリプロン群で6件、プラセボ群で4件の計10件の死亡例が報告されました。オルフォグリプロン群の6例のうち5例は治験薬と無関係と判断されました。残る1例については関連性が否定されなかったものの、具体的な関連性は報告されず、また患者は死亡前の1年間、治験薬の投与を受けていませんでした。

1. 錠剤で注射に挑む:オルフォグリプロンの体重減少効果

肥満症治療における最大の関心事の一つは、「どれだけ体重を減らせるか」という点にあります。経口薬であるオルフォグリプロンが、すでに高い効果を確立している既存の注射薬と比較してどの程度の効果を示したのかを分析することは、この新薬の臨床的価値を測る上で極めて重要です。

ATTAIN-2試験では、72週間にわたる治療の結果、オルフォグリプロンの用量依存性の体重減少効果が示されました。プラセボ群と比較した、各用量群の平均体重変化率は以下の通りです。

  • プラセボ群: -2.5%
  • オルフォグリプロン 6mg群: -5.1%
  • オルフォグリプロン 12mg群: -7.0%
  • オルフォグリプロン 36mg群: -9.6%

これらの結果はすべて、プラセボ群に対して統計的に極めて有意な差(p<0.0001)を示しています。特に注目すべきは、最高用量である36mg群で平均9.6%の体重減少を達成した点です。論文の考察では、同じく2型糖尿病を合併する肥満症患者を対象とした注射薬セマグルチドの臨床試験(STEP 2)における体重減少率が9.6%であったことが言及されています。患者背景や試験などが異なるので直接比較はできませんが、オルフォグリプロンは「経口薬でありながら、強力な注射薬に匹敵する効果を持つ可能性」を秘めていると言えるでしょう。

2. 「いつでも飲める」という画期的な利便性:低分子化合物の強み

どんなに優れた薬であっても、患者が治療を継続できなければその効果は最大限に発揮されません。治療アドヒアランス(患者が治療方針を遵守すること)の観点から、日々の服用のしやすさは極めて重要です。オルフォグリプロンが持つ「低分子化合物」という特性は、この点で非常に画期的です。

現在利用可能な経口GLP-1作動薬(経口セマグルチド)はペプチド製剤であり、そのまま服用すると体内に吸収されにくいという課題があります。そのため、生物学的利用能(bioavailability)(服用した薬の成分がどれだけ体内に吸収され、作用する場所まで到達したかを示す割合)が低く、効果を担保するために厳しい服用制限が必要です。具体的には、「空腹時に少量の水で服用し、その後少なくとも30分は飲食や他の薬剤の服用を避ける」といったルールを守らなければなりません。

これに対し、オルフォグリプロンは化学的に合成された低分子化合物です。この特性により、生物学的利用能が79.1%と非常に高く、食事や水分の摂取に関わらずいつでも服用できるという大きな利点があります。この利便性は、多忙な現代人のライフスタイルに適合しやすく、患者の生活の質(QOL)を損なうことなく治療アドヒアランスを向上させることが期待されます。さらに、低分子化合物は大規模な製造が可能であり、治療へのアクセスを世界的に向上させる潜在力も秘めています。

3. 体重だけじゃない:血糖コントロールへの強力な効果

2型糖尿病を合併する肥満症の治療目標は、単に体重を減らすことだけではありません。体重管理と同時に、血糖値を適切にコントロールすることが不可欠です。

ATTAIN-2試験では、血糖コントロールの重要な指標であるHbA1cの変化についても詳細なデータが示されました。72週時点でのベースラインからの変化は以下の通りです。

  • プラセボ群: -0.47%
  • オルフォグリプロン 6mg群: -1.22%
  • オルフォグリプロン 12mg群: -1.50%
  • オルフォグリプロン 36mg群: -1.66%

このHbA1cの低下は非常に顕著であり、特に36mg群では、参加者の75.5%が糖尿病治療の一般的な目標値である「HbA1c 7%未満」を達成し、さらに66.6%がより厳格な目標である「6.5%以下」を達成しました。この結果は、オルフォグリプロンが体重管理と血糖管理を同時に強力に行える「2つの効果」を持つことを示しています。

結論:経口肥満症治療の新たな選択肢となるか

オルフォグリプロンは、2型糖尿病を合併する肥満症患者に対し、注射薬に匹敵する体重減少効果と強力な血糖コントロール改善効果を、食事制限のない経口投与という非常に高い利便性とともに実現しうることを示しました。

有害事象による治療中止率は、注射薬のセマグルチドやチルゼパチドよりは高かったものの、既存の経口セマグルチドよりは低いという比較データも示されており、その忍容性は複雑な治療環境の中で評価される必要があります。この薬が承認されれば、注射に抵抗がある患者や、日々の服用制限が生活の負担となっていた患者にとって、治療へのアクセスや継続性を劇的に改善する「ゲームチェンジャー」となる可能性があります。