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【SEQUOIA試験:Arm D】ザヌブルチニブとベネトクラクスの併用療法は高リスクCLL治療の新たな標準治療となるか?

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Shadman, Mazyar et al. “Zanubrutinib and Venetoclax for Patients With Treatment-Naïve Chronic Lymphocytic Leukemia/Small Lymphocytic Lymphoma With and Without Del(17p)/TP53 Mutation: SEQUOIA Arm D Results.” Journal of clinical oncology : official journal of the American Society of Clinical Oncology vol. 43,21 (2025): 2409-2417. doi:10.1200/JCO-25-00758

慢性リンパ性白血病(CLL)の治療は近年大きく進歩しましたが、中でもTP53遺伝子に異常を持つ高リスクの患者さんは、従来の治療法では十分な効果が得られにくく、予後が不良であるという大きな課題を抱えていました。この難題に対し、次世代BTK阻害薬であるザヌブルチニブとBCL2阻害薬ベネトクラクスを併用する治療法を検証した「SEQUOIA試験 Arm D」の結果が発表されました。

キーポイント

  • 高リスク患者でも標準リスク患者と同等の治療効果を達成
  • 心毒性のリスクが低く、良好な安全性プロファイルを示す
  • 高リスク患者では、より長い治療期間が深い寛解に繋がる可能性
  • 抗CD20抗体なしの2剤併用で、3剤併用療法に匹敵する生存率を達成

1. 高リスクが「予後不良」を意味しない可能性

TP53遺伝子の異常は、CLL細胞の生存と増殖を制御する重要な仕組みが働かなくなり、化学療法や一部の分子標的薬に対する抵抗性の原因とされてきました。そのため、この遺伝子異常を持つ患者さんの治療は極めて困難で、CLL治療における最大の課題となっていました。

しかし、SEQUOIA試験 Arm Dの結果は、この課題について大きな成果をあげました。本試験における24ヶ月時点での無増悪生存(PFS)率を比較したところ、TP53異常を持つ高リスク患者群で94%、持たない患者群で89%という結果でした。本試験のデザイン上、両群間の統計的な比較は意図されていないものの、この結果はTP53異常という強力な予後不良因子の影響を本治療法が克服した可能性を示唆しています。

2. 「2剤併用」で「3剤併用」に匹敵する効果

近年のCLL治療では、作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで、より高い治療効果を目指す併用療法が主流となっています。特に、BTK阻害薬とBCL2阻害薬に抗CD20抗体を加えた3剤併用療法は、非常に高い効果を示すことが報告されていますが、その一方で副作用のリスクも考慮する必要があります。

SEQUOIA試験で検証されたザヌブルチニブとベネトクラクスの2剤併用療法は、治療効果の重要な指標である微小残存病変(MRD)の陰性化率では、いくつかの3剤併用療法に及ばない結果でした。しかし、より臨床的に重要な24ヶ月無増悪生存(PFS)率においては、3剤併用療法に匹敵する結果を示しました。

この結果は、これまで主流であった「可能な限り高いMRD陰性化率を達成することが長期的な治療成功のカギである」という前提に疑問を投げかけます。ザヌブルチニブによる継続的な治療が、わずかに浅い寛解深度を補い、抗CD20抗体の毒性を回避しつつ長期的な病勢コントロールを可能にするという、新たな治療戦略を示しており、すべての患者さんに3剤併用という強力な治療が必要なわけではなく、患者さんのリスクや状態に応じて治療を個別化できる可能性を示唆しています。

3. 時間が鍵を握る:高リスク患者における寛解達成まで

CLL治療における目標の一つは、高感度の検査でも白血病細胞が検出できない状態、すなわち「微小残存病変(MRD)陰性」を達成することです。MRD陰性は、より深く、持続的な寛解状態と関連しており、治療成功の重要な指標とされています。

本試験では、このMRD陰性を達成するまでの時間に、リスクによって違いが見られました。TP53異常を持たない患者群がMRD陰性を達成するまでの中央値が11ヶ月であったのに対し、TP53異常を持つ高リスク患者群では中央値19ヶ月と、より長い時間を要したのです。この結果は、標準的な12~15ヶ月の固定期間レジメンでは、高リスク患者が最適な寛解を得る前に治療が終了してしまい、結果的に早期再発に繋がる可能性があることを示唆しています。本試験のように24ヶ月の併用療法後にザヌブルチニブ単剤を継続するという治療デザインは、まさにこの課題に対する一つの解決策と言えるかもしれません。

さらに、本試験では他の主要な臨床試験(CAPTIVATEやFLAIRなど)よりもはるかに厳格な治療中止基準(確定された完全寛解に加え、末梢血と骨髄の両方で連続したMRD陰性)が設定されていました。この厳しい基準にもかかわらず、患者の10%が治療中止基準を満たして治療を完了し、その多くが寛解を維持しているという事実は、達成された寛解の質の高さを裏付けています。

4. 有効性と両立する安全性:心毒性が低く、忍容性の高いプロファイル

BTK阻害薬を用いた治療では、心房細動などの心血管系の副作用がしばしば懸念点となり、特に高齢の患者さんや心臓に持病を持つ方にとっては治療継続の障壁となることがありました。

その点、本試験で示された安全性プロファイルは非常に良好でした。特に注目すべきは、心房細動の発生率が3%と低く、心臓に関連する死亡例が報告されなかったことです。この優れた心血管系の安全性プロファイルは、本試験の参加者の60%が65歳以上という、心血管イベントのリスクが高い高齢CLL患者集団で達成されたという点で、非常に重要です。これは、本治療法が実臨床において幅広い患者層、特に心疾患のリスクを持つ患者さんにとっても安全な選択肢となり得ることを強く示唆しています。

また、試験期間が新型コロナウイルス(COVID-19)のパンデミックと重なったにもかかわらず、COVID-19による死亡例が報告されなかった点も重要です。高い有効性と優れた安全性を両立したこの治療法は、CLL治療の新たなスタンダードとなる大きな可能性を秘めています。

SEQUOIA試験 Arm Dの概要

項目詳細
試験名称SEQUOIA試験 Arm D (非ランダム化コホート)
対象未治療の慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性リンパ腫(SLL)患者(特にTP53異常を持つ高リスク患者を58%含む)
目的ザヌブルチニブとベネトクラクスの24ヶ月併用療法後、ザヌブルチニブ単剤の継続投与を行う治療法の有効性と安全性を評価する。
主要評価項目治験責任医師評価による無増悪生存期間(PFS)、全奏効率(ORR)、全生存期間(OS)、微小残存病変(MRD)、安全性
主な結果有効性:
• 24ヶ月PFS率は全体で92%。TP53異常ありの患者群で94%、なしの患者群で89%
• 全奏効率(ORR)は97%。
安全性:
• 最も頻度の高かった有害事象はCOVID-19(54%)、下痢(41%)、挫傷(32%)。
• 最も頻度の高かったグレード3以上の有害事象は好中球減少症(17%)。

まとめ

SEQUOIA試験 Arm Dの結果は、ザヌブルチニブとベネトクラクスの併用療法が、これまで治療が困難とされてきたTP53異常を持つ高リスクCLL患者さんにとって、極めて有望な治療選択肢であることを示しました。高リスクと標準リスクを問わず高い有効性を示し、かつ心毒性の低い優れた安全性プロファイルを持つこの治療法は、今後のCLL治療に大きな影響を与えると考えられます。